2016_02
10
(Wed)00:00

迷い猫 #10







あべこべ、と言うのはこんな事をもしかしたら言うのかもしれない。

一晩かけて悩みに悩んで眠れなかったこの島唯一のお巡りさんのユノは、自分が囲っている猫の膝の上でスヤスヤと気持ちよさうに眠っていて。

その眠っているお巡りさんの代わりに島の巡回、そして治安を守っているのが…

いかにもガラの悪そうな輩達と言う可笑しな事がその日の島の光景だった。

「おうっ!今日も平和に暮らせよっ」

見た目はいかつくても心は優しいのだ、声を掛けられた子供達にもそれは何となく伝わるようで。

「ヘヘッ、おじさんもね~!」

「バカ野郎っ、!俺はまだおっさんじゃねーぞー!!」

「うわっ、、にげろぉ~!!!殺されるっ」

キャハキャハと黄色い声と太陽のような笑顔。

皆、一度は通った道。
ヤクザの眼にもいつかの自分に重ねて、それが眩しく映っていた。

そして、思った、"いい島だ…"と。




ユノは朝ご飯か昼ご飯か区別も付かないような時間帯に一度だけ腹に食べ物を入れたきり、チャンミンの膝の上から起き上がる事は無かった。

そしてチャンミンもまたそんなユノを起こす訳でもなく、ただその髪を指で優しく梳くだけだった。

優しく、優しく。

離れ難い温もりを、今一度その手に触れさせるように、ただ優しく…梳くだけ。

「…ユノ…」

呼び掛けにユノは眼を閉じたまま。
チャンミンは身体を折り曲げてそっと、だらしなくぽっかりと開けた口の端に唇を寄せる。

そしてそんな、時を止めた穏やかな二人を置いて。

島はざわざわと揺れていた。





「ん…」

ユノが重い瞼をこじ開けると部屋の灯りは無く。
その代わりに自分の鼻先にふわっと触れて、そしてまたふわっと離れて。

チャンミンがコクコクと舟を漕ぐように、ユノを膝に乗せたまま寝入ってる姿だけを捉える事が出来た。

…チャンミン…

鼻先を擽るチャンミンの垂れた前髪を指先に絡め、そして耳に掛ける。
頭を起こしてその頬に触れたまま顔を近付けたその時。

「ユノーッ!」

と、自分の名を呼ぶ子供達の大声でチャンミンの肩もピクリと動き。

ユノは名残惜しくも、その身体を離した。

「おうっ、今行く!」

玄関に待っているであろう子供の元へと立ち上がって部屋を出たのだった。

残されたチャンミンはまだ眠っている?
いいや、ちゃんと起きてもう思考は正常に動き出していた。

けれど、それでも動けずにまたパタリと横になってしまったのは何故か。

それは。

ドキドキと昂ぶる鼓動が苦しくて、胸を押さえて息が整うのを待っていたからだった。

その顔も、耳も、身体も。
全てが熱かった。

ユノに触れられた全てが熱いのだ…



子供達は「今日は特別なお祭りがある」と言って、ユノとチャンミンにも島の集会所に行こうと誘いに来たのだった。

分かったと、一旦子供達を玄関に待たせたままチャンミンの様子を見にユノが部屋に戻ると。

そこにはいつものチャンミンが居て。
ユノが差し出した手に、大人しくその手を重ねて。

二人はその手を離す事無く、子供達と一緒に出掛けて行く。

子供達はそんな二人を囃し立てる事はしなかった。
ユノはチャンミンに触れていたい。
そしてチャンミンもユノから離れたくない。

果たして子供達にその無言の疎通が理解出来ていたのかは定かだが。
二人が寄り添う空気が優しくて、馬鹿な事を言って邪魔をしたく無かったのである。

もうそんな二人の光景は島の人達にも受け入れられている証拠を…ユノが身を以て知った時。

チャンミンの心を表すような綺麗な涙を流す彼を見た。

「ほらっユノヤ!突っ立ってないで今日の主役をちゃんとエスコートしてあげな!あんたそれでもちゃんと付いてんのかい!?」

下品な言葉でブミさんがユノの股間を握り締めると「おや、意外と大きいね」と場を盛り上げる。

集会所の入り口の垂れ幕を見て、涙を流したチャンミンにも笑顔が戻った。

ユノも、実はもう少しで泣く所だった。
ブミさんに茶化されて、その涙は引っ込んだ。
ユノまで泣いてしまったらこの場が湿っぽくなってしまう。流石、ブミさんだ。

「今度、勝手に触ったらセクハラで逮捕するからな!」

「おぉっ、怖いねぇ~老人は労わるって学校で教わらなかったかい?そうか!あんたのソレはチャンミンだけを労わるもんなんだねぇ」

カカカッとブミさんが笑うとドッと会場が湧いた。

ユノもチャンミンも真っ赤だ。
でも、その心は幸せに満ち溢れていた。

入り口の垂れ幕も、即席で設けられた宴も、全てはこのチャンミンの為。

【ようこそ!チャンミンさん】

チャンミンを島民は歓迎したのだった。





宴は楽しかった。チャンミンも終始笑っていた。

ユノはトイレに行くと告げてチャンミンを残して席を立つ。
そして、用を足してトイレを出ると。

そこにアルムさんが立っていた。

トイレに行くような雰囲気でも無い。
自分を待っていたのだと分かり、彼女が会場の外に出て行くのを黙って追ったのだった。


「チャンミン君は組の者じゃないから」

集会所の近くに島の誰かが作った木製のベンチがあり、そこに腰を下ろしたユノに、同じように隣に座ったアルムさんが呟いた。
それでユノが聞きたかった疑問が一つ、解決した。

「でも、彼には大きな貸しがあるそうなの。だから、組も簡単に離す事が出来ないのね…」

その貸しをアルムさんははっきりとは言わない、それならと、深くは追求しない。
頷く俺に対してアルムさんはその後を続けた。

「それでね、私が彼を預かる事にしたのよ。男手が必要なのは本当だから。いつ解放させてあげられるかは分からないけれど、せめてユノちゃんから取り上げる事だけは避けられたわね」

小さくウィンクをして見せる彼女は愛らしく、そして美しい。

「…どうして、俺にそこまでしてくれるんですか…?」

彼女の愛する人はもうこの世には居ないんだ。
その死に、自分が大きく関わっていると言うのに…
四年も野放しにした上に、チャンミンにも便宜を図ってくれるのは?

その理由が知りたかった。

「ねぇ…ユノちゃん。私ね、あの人と本当の夫婦になっても良いって思ってたのよ?でもあの人は違ったのね、私と子供達には黒い世界を見せたく無かったのよ。…けど、結局…息子もあの人と同じ世界を選んでしまうんだもの…だったら、、」

"妻として、傍に居たかったわ…"

もう彼女のその願いが叶う事は無い。

しかし、叶わない願い事を口にしている筈なのにアルムさんの表情には哀しみも無い。

「あの人ね…いつも寝物語で必ず言う事があったの。『俺は漁師になりたかったんだ』って、だからこの島に来た時に思ったのよ…あの人はここに居るんだ…ってね」

あぁ、と。ユノは思った。
彼女はまだこの島で恋をしているのだと。
愛する人を失ってもまだ想っているのだと。

だからこそ、彼女は枯れない魅力を保ち続けていられるんだろう。

凛とした美しさ、まさにその名に相応しい《アルム》の隠された真の強さを知ったのだった。

「でもね、言葉はね…生きてる人にしか伝えられないのよ、ユノちゃん」

そしてまた、そんな彼女の言葉にも重みがあった。

「・・・」

「ぼやぼやしてると他に飼われちゃうわよっ」

パンッと背中を軽く叩いて彼女は笑って暗闇へと消えて行く。

暫くユノは動けずにベンチに凭れた。

元々、自分の物では無い。
迷子を一時的に預かっていただけ。

けれど、それに情が湧いた。
今はその気持ちが何だかも分かる。

「・・・ユノ?」

雲に隠れた月を見上げていたんだ。
でも、そこに今はチャンミンが映り込んでいる。

「…好きだ」

「えっ?」

「俺、チャンミンが好きなんだ…」

手を伸ばせば届く距離に、瞳を濡らしたチャンミンの顔がある。

手を伸ばせ…ば、

伸ばした手がその身体に触れる事も無く、ユノはチャンミンに触れていた。

そう、唇に彼の温もりが重なっていたのだった。











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2016/02/10 (Wed) 12:12 | # | | 編集 | 返信

くみ***様

くみ***さんこんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

↑非公開コメントにしたから名前も伏せてみたんですけど・・・伏せる所間違えてる感じになってますよね(笑)

前作の禁断の果実でエネルギー使ったじゃないですか、だからこそほっこり心が温まるお話を書きたかったんですよね(*˘︶˘*).。.:*♡
今年は自分のペースで、自分が書きたいお話を書くと決めたので今まで書いてた感じとはちょっと雰囲気は変わると思います。

チャンミンの膝枕・・・///
どうしましょうオンニ!私もそれはやって貰いたいんですけどーーー!!ありをさんも呼びましょう!ね💓
膝は二つあるから、右はオンニで、左がありをさんで…で、私が真ん中\(//∇//)\💓きゃー!!チャンミンのチャンミニに・・・きゃー!!

深海魚!あれねー(笑)明日からそっち方面に行くんですよね((´^ω^))ゥ,、ゥ,、
それを観に行きたかったけど他にも用事あるから行かないかもです。
しかし、、、親子の会話面白過ぎる(T▽T)アハハ!
あー、これ非公開コメントにしてしまって残念il||li(ФДФ;) il||li
流石ですね!ふふふーっ!

2016/02/10 (Wed) 20:52 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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2016/02/10 (Wed) 21:16 | # | | 編集 | 返信

ひま***様

ひまさんこんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

すみませんil||li(ФДФ;) il||li忍者と寝落ちしてました、、さっき起きて、「あ、まだ22時半か♪」と思ってたら違っててビックリして!明日から帰省するのに準備しておいて良かったとホッとしてます(^◇^;)これで何もして無かったらガックリでしたけど(笑)

ひまさんが体調崩されたかな??と思ってたんです(;^_^Aそこも違ったかぁーー!
へー!?もう公立の試験があるんですね?
こちらは来月らしいんです。甥っ子はのんびりしてます。大丈夫かな??

いゃ〜ん、、そっか!もう本番を迎えてたんですね(*゚Д゚*) 
本人はともかく、親の方がドキドキですよ!!
自分が受けに行く方が気が楽ですって(+_+)
お疲れ様でしたね!まっちゃん💓
後はなるようにしか?でしょうか、、、ドキドキ!!

2016/02/11 (Thu) 00:08 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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