迷い猫 #4

男同士のセックスがこんなに手間取るもんだとは知らなかった。
色気もクソもなく、やる事やる為に服も下着も全部脱ぎ捨てたあいつが俺の息子を下着から取り出して舐め始めた姿を見て。
俺はあっさりと欲情したんだ。
だから、そんなまどろっこしい事を省いて一気に押し倒して挿れてしまおうと。
奴の身体にのし掛かって尻の穴に突っ込もうとしたら。
「馬鹿ッ!がっつくな!」
思いっきり腹をグーッでパンチしやがったんだ。
猫パンチなんてもんじゃない、あれは本気の拳だった。
「ッイテテ、、何すんだよっ!?」
「はぁ!?それはこっちの台詞だろ?準備もしないでいきなり挿れる馬鹿がいるかよ」
上にのし掛かっていた俺を押し退けると、奴は初めてここに来た時に持っていた肩掛けバッグからゴソゴソと何かを取り出すと。
それをおもむろに自分の尻の穴に塗り込め始めた。
「何だよ…それ」
「んー、ワセリン。あんたに分かりやすく言うなら、ソレとここを繋ぐ潤滑剤かな」
ソレ、とは俺のアレ。
尻に挿れる為にそんな事をしていたなんて初めて知ったぞ…
って、事は昨夜も俺が寝ている間にこいつは一人でこんな事をしてたのかよ…
何だか一気に眩暈が押し寄せる。
その間も奴は俺の視界から逃れるように背を向けながらも穴を広げていて。
手持ち無沙汰って言うのか、何だかソワソワして落ち着かないもんだから、つい…
「…手伝おうか?」
奴は驚いたのか、顔だけをこちらに向けて「本当に馬鹿か?」と、小声で呟いた。
でも、その耳とか、頬っぺとか。
薄っすらと赤く染まっているのが薄暗い部屋でも分かるし、そんなのを見せられて俺はそれを放っておけなかったんだ。
また前に顔を戻して奴の気が俺から逸れたのを見計らい、後ろから軽いヘッドロックをキメてベッドに沈ませると。
不意打ちを喰らったあいつはジタバタと暴れる事も出来ずに、後ろに倒れ込んだ反動で指も尻から抜けてしまった。
その隙に回り込んだ俺は奴の身体の間に割り込んでやって。
「あっ」
と、あいつが声を上げた時にはもう既に俺の指は少し拓き掛けてた部分に入っていたんだ。
「意外とあったかいな…」
素直な感想はそれだった。
「ほんっと、、ばっかじゃねぇのあんた…」
奴は目を見張って俺を睨んでいた。
けれど全然怖くないし、寧ろ可愛い。
ん?可愛い?何だそれ…まぁいいっか。
「そうだよ、今頃知ったのかよ」
ニヤリと笑って言ってやった。
開き直った俺のハートは強かった。
呆れたのか、あいつは顔を腕で覆って何も言わなくなり。
その後は俺の指の音だけが静かな部屋に響いた。
自分の尻の穴になんて一生指を突っ込む事は無かっただろう。
なのに、他人の身体をこうして無心で弄り続けているのがふと可笑しくなって来て。
笑いを堪えて奴を見上げると。
あいつは…
小刻みに震えて、浅い吐息を繰り返していた。
俺はそれにびっくりして、思わず「痛いか!?」って、指を止めたら。
奴は、はぁ…と深く溜め息を吐き。
「逆…」って。
その時、チラッと腕の隙間から覗かせた瞳に水の膜が見えた。
萎えてた筈の俺の下半身にずくんっと重たい熱が集まる。
「お前、、、反則だろそれ…」
「…ハァ?」
身体を起こそうとした奴の肩をシーツに縫い付けて。
もしかしたらまだ不十分だったかもしれない穴に俺の昂りをあてがうと。
暴れていた奴はびくりと身体を震わせて
「…あんたの、デカイんだから慎重に挿れろよ」
そして、長く息を吐き出した。
「うっせぇ」
慎重にとか、デカイとか忠告されて自分の性器を見つめ直すとさっきまで萎えていたのが嘘みたいに張り詰めていて痛々しい。
マジか…
思わずゴクリと生唾を飲んだ。
「今更、怖じ気付いたのかよ?」
ハハッと乾いた笑いが聞こえ、俺は…
「逆」
そう言ってあいつが笑えないようにその身体に楔を打ち込んだ。
勿論、男とやるのは初めての事だし。
今までだってこれっぽっちもやりたいなんて思った事も無かったけれど…
正直、良かった。
なんて言えばいいのか、初めは尻の肉を割り入る度にあいつが顔をしかめるもんだから。
罪悪感みたいなのが込み上げて来て、少しだけ怯んだりもして。
それで動きが鈍くなった俺を見て、「大丈夫だって…」と奴が潤んだ瞳を細めて苦しげに笑ってみせるから。
またむくむくと性欲が戻って来て。
ちょっとずつちょっとずつ、腰の振り幅を大きくしていった。
そうこうしている内に段々とコツみたいなのが掴めて来ちゃって、気付いたら結構奥まで抽送を繰り返していたんだ。
でも、あいつは俺の下で「ふっ」とか「ンッ」とかそんなんばっかりで本当に気持ち良くなってんのかは分からなかった。
だから、俺は自分の事だけに集中する事にして。
ただひたすら竿の括れとか奥の締まった所とか、イイトコロを狙って腰を振り続けた。
そして。
時間にしたら数十分?そこら辺はよく覚えてねぇな。
徐々に出し入れの速度を上げた俺は吐き出す事しか頭の中になくて。
「中は、、やめろ…っ!」
そう言われた時にはもう遅かった。
ドクドクと溢れ出した熱は、奴の中だった。
その後、俺は散々あいつに怒られてしまい。
「知識無いくせして主導権握んなッ‼︎」って言われて。
「ごめん。次までにはもっと勉強しとく」
って、言ってやったんだ。
奴はそれに対して何も答えずに尻の穴にティッシュを詰め込んで風呂場へと消えて行ったっけ。
じゃあ、また次があると思ってもいいって事だよな…?
本当、開き直った俺は強い。
そう思う。

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