迷い猫 #2

『ユノちゃん』
あー・・・アルムさん…?
『ユノちゃんなら…あたし…』
えっ…アルムさん、、えっ、うわっ…すごっ、、きつっ……
「あっ、キツイ?」
ん?
「その内緩くなると思うんだけど」
は?
「ちょっとは我慢しな、すぐに気持ち良くしてやるから
・・・っ!?
目を開けてしまってユノは酷く後悔したと思った。
何故ならそこには夢の中で描いていた美人女将では無く、紛れもなく正真正銘の男が…
自分の上に跨っていたからだった。
しかも、あろう事かどうやら自分の身体の一部がその男と繋がっている感覚があるのだ。
そして男は息を深く吐きながらユノの屹立しきった性器を奥底へと沈めている最中だった。
目に飛び込んでくるその映像やら、狭い局部の圧迫やら、とにかくそれだけでユノの思考は飛ぶ寸前に追い込まれてしまうのに。
男がみちみちと咥え込んだのを確認するや否や、安堵の表情を浮かべながら突然自身の反り勃つ性器を扱き出すものだから。
ユノを咥え込んだままの尻がきゅうっと締まる。
ユノにとって、その全ての刺激が強過ぎたのだろう。
言葉を発したのか訳も分からないまま。
意識を手離してしまったのだった。
ん…なんか重い…
いつもの時間にセットしたアラームが鳴り響き、それを止めようとユノが手を伸ばそうとするのに何かがのし掛かっていて思うように身体が動かない。
「んあっ!」
力任せにそれを押し退けると「グェッ」と、まるでヒキガエルのような声にユノは青ざめた。
夢、じゃねぇのかよ…
ヒキガエルの正体は、昨晩交番に預けられた猫。いや、謎の男。
いや…チャンミン?だっけ。
そいつだった。
しかも…俺もお前も真っ裸ってぇー!?
あぁ、、頭が痛い、、、
頼むから夢だと、ぜーんぶ悪い夢だったって誰か言ってくれよぉ……
「むっ、失礼な奴。夢じゃないって。ちゃんと気持ち良くなっただろ?」
思わずユノは自分が灰になって消えてしまいたいと願った。
それもその筈、すかさず奴は朝勃ちのユノの性器をパクリと大きな口に飲み込んで。
見せ付けるように丹念にねぶってみせるのだ。
「あ、、ちょっと待てっ、、!」
「お預け?りょーかい」
「ぅっ…ちがっ、、いや、違わなく……」
「なぁ、どっちよ?」
「う゛、、おまっ、、」
俺だって男なんだ!朝から勃つのは生理現象ってやつで、、
かと言ってここで放置されんのもつれえし。
うー、ぅっ…
奴は口からスポッと抜き。
テカテカと光る性器を指先でちょんちょんと軽くつついて遊びだした。
「猫じゃらしじゃねぇ!」
俺はもう半ばやけくそで、笑いを噛み殺すそいつの頭を押さえつけて可愛くない事を言う口にそれを突っ込んでやったんだ。
猫じゃらしを。いや、俺のチンポを!
「ちょ……待てっ」
そしたら奴はここに来ていきなり抵抗を見せてくるから頭にきて。
「何だよ!?」
って、言ったら、、、奴は人差し指を外に向けていて。
俺はその指の方向へと、顔を向けて…固まった。
今日は白い歯じゃなくて、目を剥き出した子供達がそこに。
居たんだ。
「うぞっ‼︎」
「わ~~~‼︎ユノがぁーーーーっ」
「待てっ、、おいっ、、待てって、、人の話を聞けぇ~~~っ!」
網戸にしがみ付いていた子供達は、ワーッと一斉に蜘蛛の子を散らすように駆け出した。

「暑い夏だもん…寝る時は夜風と扇風機だろ?
まさか…寝室の網戸越しに覗かれるなんて思って誰も窓を開け放した訳じゃないんだよ…」
残されたユノは誰も居なくなってしまった戸外に向けて、誰に聞かせるでもない言い訳をぶつぶつと呟くだけだった。
けれどただ一人。
それを聞いてユノの後ろで笑い転げてる奴の存在に、朝から雷を落としたのは言うまでも無い。
ま、後で聞いた話だけど。奴の言い分としては【一宿一飯の恩義】だったそうだ。
「だってさぁ~寝言言いながらチンポおっ勃ててんだぜ?慰めてやろうかなって思うんじゃん」
とか言われて、俺はなんて答えればいいんだよ…泣けてくる…
ぜってー間違っても「ありがとう」なんて言わねえからな!
ユノは結局、日課の巡回でブミさんに会う前から腹の立つ事を抱えたまま交番を後にしたのだった。
けれど、直ぐにユノは気付いた。
降りかかった災難はそれだけでは終わらなかったようだと。
島の人に会うなり投げ掛けられた言葉で知ってしまったのだ。
「おっ!ユノも水臭えなぁ~そっちの趣味があるんなら早いとこ言えっつうの、なあ?」
「あぁ、そうだぜ!どうりでお前に女を紹介しても上手くかわされてた訳だよなぁ。なんだよ、そっちの方が好きなら好きって言えよ!ホモでも俺達は全然気にしねぇからな!ガッハッハ‼︎」
あったま…いってぇ。
今日はギコギコと煩く鳴く相棒が嫌に頭に響いたのだった。
散々あちこちで誤解を受けながら、それでもまた昨日と同じようにブミさんの姿を見つけるとつい声を掛けたくなってしまう。
「ブミさん…」
「何だい、今日は一段としけた面してどうしたんだい?」
「ん、別に何でもねえよ…それよりさ、旦那さんとちゃんと仲直りした?」
「はぁ、ユノヤ。またその話かい?あっちが折れなきゃあたしは気が済まないんだよ!」
「もぅ。この頑固者め…っ」
「ったく、怒るかしょげるかどっちかにしたらどうだい?」
「…へ?」
「彼氏とイイコトしてる所を見られたからってそれがどうしたってんだ!?もっと堂々としてりゃいいのに、全くあんたも情けないね‼︎」
「か、かれしぃ!?ばっ、、バカヤローッ!違うわいっ!!!」
「あらなんだい、彼氏じゃないのかい。じゃあセフレってやつかね?」
「セッ、、、!?もういいッ!」
「アッハッハ、ユノヤ!恥ずかしがらなくていいのに!もっとゆっくりとお茶していきなってー」
ユノはブミさんの高らかな笑い声を背に、もう足は自転車へと向けられていた。
「皆、寄ってたかって‼︎俺はホモなんかじゃねぇーッ!!!」
大海原は今日も穏やかな波だ。
ユノの腹の底から出た叫びさえもすっぽりと覆い包む雄大さがそこにはある。
「あ・・、居た。あいつら、、」
夏の陽射しで乾き切った砂浜は、走り出したユノの足でサラサラと舞い上がり。
ぷんっと薫る潮風は、怒りで我を忘れて一気に斜面を駆けおりるその身体に優しく纏り付くのだった。
「あ!ユノだぁ~~今日は一緒に泳げるのぉ~?」
ハァハァと全速力で波打際に辿り着いたユノを見て、子供達は相変わらず呑気な事を言って来る。
「な、、、おまえらなぁっ、、ハァハァ…あち゛ぃな…くそっ」
うーっ、と呻き声を上げて結局ユノはばたりとその場に仰向けに倒れてしまう。
こんなに本気になって走ったのはいつ振りだろう。
昔はこの俊足を買われて、よく上司から褒められたものだった。
ふと、そんな遠いような近いような曖昧になってしまった記憶が蘇り。
今見上げている広い空の下で、何だか自分がいたく感傷的になっているのが馬鹿馬鹿しいと思えた。
「ユノぉ…?何してんの?」
いつの間にか自分の周りを囲むように海から上がった子供達が見下ろしていた。
「あー・・、空が青いなぁ…って、違う!お前らなー‼︎何勝手に人の家に知らない奴をあげておいて、ある事ない事を喋り歩いてんだーッ!!!」
急に起き上がったかと思えばプンプンと怒ってみせるユノに集まった子供達はゲラゲラと大笑いをした。
そして、そのうちの一人がこう言うのだ。
「俺達は見たまんまを話しただけだってーっ!ユノがチャンミニヒョンにチンチンを突っ込んでたって‼︎」
「ぅ゛っ・・・」
確かに、間違いは無い。
ユノはその場に膝から崩れ落ちた。

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