イクメンウォーズ #33

「お前さ…また俺の前から居なくなる訳…?」
ふわりとおでこに触れた唇がモゾモゾと動いて、正直擽ったいのに。
離れようと身を捩ろうとした体を逆に逞しい腕の中に閉じ込められてしまう。
「お前…本当に…覚えてないのか…?」
同じ事をさっきから繰り返しているのに、その言葉がどんどん寂しそうな声色に変わっていくから。
訳も分からずに抱き締められているだけの僕でさえ、その寂しい気持ちが伝染してゆくようで。
だから、必死に思い出そうと。
目を閉じて。
おでこと体に触れる温もりの中で…
ーーーあの頃の僕を探した。
あの日。
僕は少しだけ体調が優れなくて、園庭には出ずに室内で外を眺めていたんだっけ?
でも何で、外を見てたのかな…
あぁ、そうだ…
ガキ大将を目で追ってたんだ…
それで、楽しそうにみんながガキ大将と一緒に遊んでいるのが羨ましくて。
よせばよかったのに、ふらふらと園庭に出ちゃって。
丁度、追いかけっこの鬼をしていたガキ大将が僕を見つけて『チャンスニ!』って。
直ぐに僕を見つけてくれたのが嬉しくって、、、
輪の中に入ったつもりでふらふらする癖に必死で逃げようとしたんだった、、、
それで…ガキ大将が僕を追い掛けて来て……
でも足取りも覚束ない状態だったから直ぐにつまづいちゃって。
その先に偶々コンクリートの遊具が
あっただけ…
そう。それだけ。
ガキ大将は悪くないのに。
なのに、どうしてこんなに僕を見つめて泣いたりしてるんだろう?
それに僕は痛い筈なのにこんなに幸せな気持ちでいるんだろう?
どうしてーーーー?
『……………………チャ、、ンスニが、、死んじゃう、、、』
『…………………傷が治らなかったら、、、俺が、、、責任、、、取るから、、』
『…………………俺が、、、、お嫁さんに、、、するから、、、』
『約束、、する、、、』
……フラッシュバッグした記憶の中のガキ大将が、途切れ途切れにそんな事を口にしながら。
怪我した僕よりも大粒の涙を流していた。
「…責任、取るって…お嫁さんって…?」
思い出した事を呟いたら。
はぁ…とおでこに当てた唇のまま溜め息を吐き。
「そのまんまだ、そう言ったらお前は嬉しそうに笑って…"約束?"って俺に聞いたんだよ」
約束…
「なのに勝手に居なくなりやがって…」
ギュッと。
抱き締める腕に力が籠る。
約束…、守る為に僕を待ってたの?
僕と園長が一緒に過ごした園は確かにこの保育園の系列だった筈。
それを守る為に園長を引き受けていたとしたら…?
園長になったガキ大将と出会えた縁が偶然じゃなくて、必然だとしたら…
「……………………あのぉ…」
声のする方を園長が振り返ったから、僕も少し緩んだ腕から顔を覗かせると。
!!!!
そうだったぁぁぁ~~~////‼︎
ここは職場だった、、、、
いつの間にか園長代理の先生以外にも、他の先生達まで固まって窓の外から見ていたりして。
男が2人で抱き合ってる僕等は完全に異様な光景。
だから、慌ててバッと離れようとするのに。
ガシッとその腕は園長が掴んで離さないし。
その上、「逃げんじゃねぇよ」って意味不明な睨みを効かせられて。
結局、腕を掴まれたまま。
「すみませんが、少しの間お借りします」
って、園長代理の先生に軽く断りを入れたかと思ったらそのまま引き摺る様に僕を園から連れ去った園長だったんだ。
ーーーーー何処へ、、何!?えッ、、、??

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