イクメンウォーズ #27

「なぁ…あんまり無理すんなよ」
夕飯を終えてキッチンに立つ僕の脇には不安気に表情を曇らす園長が居て。
やっぱり、、堪らずくすっと笑ってしまう。
「お昼からもずっと横にならせて貰ってたので体も結構回復してきましたから。だからそんな顔しないで下さい」
ね?って俯きがちだった園長の顔を下から覗き込めば、すかさず。
ちゅって、唇を奪われ。
ふっと笑みを浮かべる。
「お前さ…見た目よりも結構男らしいんだな」
ーーーーそんな風に思われて少しだけドキッとした。
「男らしくて、、、幻滅しましたか……?」
もしかしたら"チャンスニ!"ってからかわれていた頃のあの可愛らしい僕を園長は好きなのかもしれない。
もし、あの頃の記憶のままの僕を今に投影しているなら、、、この恋の終わりは見えてしまう。
それなのに、僕の気持ちはどんどん園長に傾いている。
もう、戻れないのに………あの頃にはーーーー
「馬鹿・・・幻滅するとこなんてひとつもねぇよ、…寧ろ惚れ直した」
そっと腰に手を回し、僕の背中を支える様に体をあてがう。
「こんなにお前の事が好きで…俺、おかしくなっちまうな」
肩に乗せられた顎の重み、お腹に回された腕。
…それは、こっちの台詞だよ…
そう思うのにその言葉は出ないんだ。
「…なぁ、泣くなって…」
「な、泣いてませんよッ!」
見っともないけど嬉し過ぎて鼻の奥がツンとする。
嬉しいから泣いたら駄目なのに…
でもちょっとだけ。
もう少しだけ僕をこの幸せの中に居させて下さい…
「パパは指をね。怪我してるから1人で入れる?ママも傍に居るから」
「うん!ボク、1人で出来るよ~!」
火に当たった所は軽い火傷で済んだみたいだったけど、念には念を。
今日はミヌ君には可哀想だけど、1人で入ってもらうしかない。
チャプン
「偉いね、本当に1人で全部出来たね」
「うん!だって…いつもはママが忙しいから1人で入るんだもん、、、」
「あ、、そっか…」
そうだった…ミヌ君のママって普段はフルタイム勤務で働く人だから。
帰宅しても恐らくミヌ君と過ごす時間は僅かなんだろうな…
「・・・ママ?そんな顔しないで…今はね、パパとママと過ごせて凄いプレゼントを貰ってるんだよ?」
「ミヌ君……」
「ボクの本当のパパね….ボクがお腹の中にいる時に死んじゃったんだって。だからパパの事は全然知らなくて…、、、ママに"パパが欲しい"って言っちゃたんだ…」
「…え……っ…」
「そしたらね、、、ママね、、、"ママはミヌのパパが大好きだからごめんね"って泣いちゃった….」
「うん…そっか…」
「でもね…ボク、、、新しいパパが欲しかったんじゃないんだよ…パパに会いたかっただけなんだ……」
「…う…ん……分かるよ…」
「パパとママとね、、、一緒にいられるだけで、、、、ボクね……嬉しいんだ…」
「う…ん…」
泣かないんだね、君は。
僕が泣くと悪いと思って必死に堪えてるんだね。
小さな手をぎゅっと握り締めて。
どれだけその心の内に寂しさを抱えてたんだろうね。
本物のママの代わりになんてなれないって思っていた自分が恥ずかしい。
こんな僕でも傍に居てくれるだけでいいって、そう思ってくれる君の心が純粋で。
…とっても、眩しいね…
有難う、ミヌ君。

にほんブログ村

- 関連記事
-
- イクメンウォーズ #29 (2015/12/04)
- イクメンウォーズ #28 (2015/12/03)
- イクメンウォーズ #27 (2015/12/02)
- イクメンウォーズ #26 (2015/12/01)
- イクメンウォーズ #25 (2015/11/30)