イクメンウォーズ #26

僕に触れる園長のぽてっとした唇の心地良さにトクン、トクン、と心臓が波打ち。
「眠るまでこうしててやるから…」
ふわりと髪の毛を梳き、その優しい指先は頬を滑り落ちて。
耳朶を柔らかく包み込む。
トクントクンが、ドキドキに変わるくらいに熱くなった耳朶を何度も優しく揉み込む園長は。
相変わらず、見つめる眼差しが甘くて。
こんな状態で眠れるなんて…
思っても…みなかったけど…
温かくて。
ふわふわと揺れるこの想いのように。
僕の意識はスーッと夢の彼方へと消えたんだ…
ガタガタガシャーンッ
う…ん…あれ、、僕…寝てた…?
騒々しい物音で半覚醒状態から一気に現実へと引き戻される。
甘い・・・でも、焦げ臭い?
枕元に置かれたデジタル時計を手に取れば、もう時刻はお昼過ぎ。
寝ていただけなのに自然とお腹が空いてしまう、、本能に従順な体。
くんくんと、匂いの元を辿り。
何やら騒がしいリビングのドアを開けると。
「わーっ!パパ!火が、、、」
「ミヌ!危ないから離れてろ‼︎」
キッチンからもうもうと煙が立ち込め、その中に居るであろう2人の姿がぼんやりとしか見えなかった。
「えッ!ちょっと何!?なんですか!??」
火事!?
慌ててキッチンに駆け込むと、そこにはフライパンから火柱が上り。
それを懸命に消そうとする園長が今にも火に巻き込まれそうになっていた。
「もうっ、、危ないから2人とも下がってて‼︎」
いきなり出した僕の大きな声に、園長もミヌ君もビクッと体を竦め。素直に調理台から離れて行く。
その隙にザッと周りを見渡して、リビングに置きっ放しになっていたバスタオルを取りに行き。
僕はそれを急いで水に濡らし、軽く搾った状態で燃え盛る炎に覆い被せた。
シュー・・・
「ふぅ…鎮火…しましたよ…」
キッチンカウンターの向こうからおずおずと親子が顔を出して苦笑いをしている。
僕が立っている調理台にはホットケーキミックスの箱と、割れた卵の殻と、牛乳パック。
「ぼ、ボクがね、、、途中まで作ったんだけど………焼くのは出来なくて……ご、ごめんなさい…ママ…」
おどおどしながらチラッと僕を見ながら話すミヌ君はちょっとだけ泣きそうで。
その隣で更に複雑な表情を浮かべる園長なんて、次第に肩を大きく落とし始めちゃって。
「俺が、悪りぃんだ…油の量を間違えちまって…ミヌはちっとも悪くねぇよ」
な、って自分だってまるで捨てられた犬みたいにシュンっとしてる癖に。
こんな時だって……やっぱり園長は、パパなんだ。
ミヌ君を必死に慰める。
優しいパパなんだ。
だからさ、堪らず
「っぷ…あはっ、、、あははは!似た者親子ですね、、、」
笑っちゃって。
そしたらね、シュンっとしていた2人は途端にパアッと顔を明るくさせて。
「あは、あははは、、、あははははは‼︎もぉーパパのせいだもんねー!」
ってね…
泣いたカラスがもう笑った…そんな感じだったんだ。
その後、仕切り直しでって事で僕が焼いたパンケーキと昨夜食べ損ねたバースデーケーキを美味しそうに頬張って。
公園で遊んだ疲れと、さっきの騒動の疲れからかな?
一緒に泣いて笑ったカラスの親子は…
仲良く寄り添ってリビングに敷かれたラグの上で丸まって眠りに就いたんだ。
「ねぇ、園長…
僕の為に慣れない事…してくれたんですよね?
でもね、無理はしないで下さい…
あの時、炎に包まれる貴方を見た時、、、
僕の心臓がどれだけ大きく跳ねたか、分かりますか…?
貴方に何かあったら…
もう…僕は…耐えられないんです………」
心地良く眠りの中に堕ちた人。
赤く火傷した指先にそっと濡れた頬を寄せる。
「僕はもう、、貴方を失うのが怖い程、、好きになっちゃったんですから……」

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