breath -後編-

「うん、有難う。お前さぁロウソクの火は消せるよな?」
「えっ‼︎いいんですか!?僕が消しちゃって本当にいいんですか…?」
「いいよ、だってお前の誕生日がいつか分かんないから祝う事も出来ないじゃん。だから今日は俺とお前の誕生日って事で、どうぞ」
「・・・・ユノさんっ、、」
「何だよ…泣くなって。来年もまた一緒に祝うんだろ?毎年ビービー泣く気か?ほら、いいから早く消せって」
「はい、、」
あいつは鼻をぐしゅぐしゅさせて、大きな目を真っ赤にして。
フーッと勢い良く息を吐いた。
ふっとロウソクの火が消えて。
部屋の明かりが全て無くなり。
俺は手を伸ばして部屋の明かりを点ける。
「わっ‼︎」
パッと明るくなった室内。
あいつの顔が直ぐそこにあって驚いてしまう。
「…ごめんなさい…」
「や、びっくりしただけ…どうした?」
あいつの目は少し潤んでいた。
目の端が朱に染まっていて、それが少しだけ艶っぽくて。
触れる事が出来ないって、分かってるのに。
この鼻先が触れる距離に凄くドキドキして。
あいつはそこから動く事もなく。
俺の頬にそっと、手を伸ばし。
「…ユノさんに何かプレゼントしたいけど、僕からあげられる物も無いし…僕が何かを貰う事も出来ないから…だから…その…キス、しちゃったんです…」
そう言って、今にも泣きそうな顔をくしゃりと潰して笑うんだ。
ずっと、ずっと。
俺だってお前に触れたいって思ったよ。
手を伸ばしてこの胸に抱き締めてやりたいって、何度思った事か。
そう言う想いは、俺だけじゃなかったんだな。
お前も…
俺に触れたいって。そう思ってたんだ…
キス、なんて…
出来るわけ無いのに
それをプレゼントにしたいって。
あぁ、もう。
「お前さ…何でそんなに可愛いんだよ…もう俺、離す気ないから…」
「ふふ…ここでずっと留年する気ですか」
「んー、分かんね。でもお前を1人にさせないから絶対に!」
「ユノさんっ、、…嬉しいです…」
「じゃあもう一回して、キス。ちゃんと俺へもプレゼントしてよ」
「…はい」

何でさ、お前は幽霊なんだろうな…
こんなに吐息は温かいのに…
どうして、、、幽霊なんだよ。
どうして。
俺の前に現れたんだよ…
『ユノさん、お天気が良いですね~折角だからお布団干しましょうよ‼︎』
『あっ!また賞味期限切れのパンを食べてますねー!その内お腹壊しちゃいますよ!?』
『そろそろお部屋を掃除しないと虫がうじゃうじゃ沸いてきますよ!僕は虫さんは嫌いですからね‼︎』
『ユノさ~ん、そろそろベッドで寝ましょうよぉ~僕1人じゃ寂しいですよ~』
『あははははっ!この芸人さん面白いですね‼︎あー、、、お腹捩れちゃいますよぉ~』
『ユノさん』
『ユノさん!』
寮に帰ればお前の明るい声が出迎えてくれて。
その日の疲れも全て吹き飛んでしまう。
もう、お前の居る生活が当たり前だったんだ。
なのに。
「…ただいま」
それは突然なんだ。
元々、見えない物が見えてた訳であって。
もしかしたらまだ何処かに居たのかもしれない。
けれど、大学6年の冬にその別れは突然訪れたんだ。
俺は、あいつを見つける事が出来なくなったんだ。
「なぁ、一緒に………毎年祝おうって…言ったよな、ほらロウソク消していいぞ…」
真っ暗な部屋に微かに揺れる明かり。
消える事の無い炎が、滲んで見えた…

窓の外にちらちらと白い物が舞う。
「雪…」
冷え切った窓にハァ…と息を吐いた。
曇って白くなったガラスに文字が薄っすらと浮かび上がる。
《파이팅‼︎》
ファイティン…
いつ書いたんだ、これ。
俺に…?それとも自分にかよ…
…ファイティン…って…
研修先の大学病院で知り合った看護師から聞いたんだ。
『私が前に勤めていた病院でね、ずっと体の弱い男の子が入院してたんだけど。大学の受験勉強中に酷い発作が起きちゃって、緊急手術は完璧だったのに…今もそのまま眠っている子が居たのよ。でも、その寝顔がとても穏やかで…"天使"って呼ばれてたわ…今もまだ目を覚まさないみたいだけど…』
分からない、直感だった…
この話を耳にしてその男の子に会わずにはいられないって、そう思った。
その後。
大学時代の先輩のツテを伝って、なんとかその子に会わせて貰えないかって。
何度も何度も親御さんにも頼み込んで。
ようやく俺は面会を許された。
そして。
その顔を見て、言葉を失った。
狭いベッドでその存在を確かめ合うように寄り添って眠った。
あいつ…
肌に掛かる吐息が"生きている"それを証明している様に思えた日々。
その寝顔。吐息が。
まさに目の前にあったんだ。

「……"シム・チャンミン"…やっと見つけた…遅くなって、、ごめんな………」
あんなに触れたいと願った頬や手。
その全てに人の温もりを感じるのに…
「今度は…声を聞かせてくれないのかよ…」
でも、生きていた。
穏やかな寝顔でリズム良く波打つ鼓動も。
規則正しく繰り返される呼吸も。
全てに《生》が溢れていた。
チャンミンは俺と同じ歳だったんだ。
そして繰り返す入退院の中で、必死に勉強して目指していた大学の学部も同じだった。
もしかしたら、一緒に肩を合わせて過ごしていたのかもしれない…
だから…チャンミンはあそこに居たんだ。
「なぁ…何で、俺を選んだんだよ…チャンミン…?」
どうして数ある寮生の中から俺の部屋だったんだ…
その答えは聞いても返ってくる筈が無いけれど。
もしかしたら。
「俺ならお前を見つけられるって、そう信じたのか…?」
ファイティン…だよな…
俺はお前を絶対に1人にしないって言ったろ。
チャンミン。必ず…
お前に笑顔を戻して見せるから。
待ってろ。
俺がお前を眠りから覚ましてやるから。
そしたらちゃんと、その時はさ。
キス…
しような…チャンミン…
「…チョン先生、どうして僕にこんなに良くしてくれるんですか?」
「俺がそうしたいから。って、駄目?」
「えっ、、いえっ、、あのっ……凄く、、嬉しいです…///」
「…じゃあさ、俺の事どう思う?」
「どうって、、、その………えっ///」
「好きであって欲しいな、そしたら俺は凄く嬉しい」
記憶が無くたって。
想いが俺に無くたって。
俺はさ、お前が生きてくれているだけで充分なんだ。
だって。
生きてさえいてくれれば何度だって告白するチャンスはあるんだから。
「あのっ、、、」
「お、ほら…雪…」
窓の外にはチラチラと白い物が舞い始め、はぁ…と吐いた息が窓ガラスを曇らせる。
《윤호 씨 사랑합니다》 -ユノさん愛してます-
「わっ///‼︎これはっ、、あのっ、、、」
「…チャンミン…俺の…事、………好きなの?」
「……………///」
泣いても怒っても、勿論笑ったら最高に可愛いくて。
そんな、幽霊のお前に恋をして。
初めて貰ったプレゼントが"キス"だった。
あの時、口元から漏れた吐息が唇を掠めて。
あれでも充分に幸せだと思ったよ、俺はさ。
だって、お前の心の籠ったプレゼントだったんだろ?
だから、今度は俺の番だ。
「…好きだよ、チャンミン」
目の前で、泣きながらくしゃりと笑う顔が可愛いくて。
触れ合う吐息は温かかった。
勿論、唇だって…
end
素敵なイメージ画像・挿絵・バナーを担当されていますAli様のブログはこちらです
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ホミンを愛でるAliの小部屋
この度の素敵な企画を発案して下さったあらた様、そしてお誘い下さったはむ太郎様、心より感謝申し上げます( *´艸`)
そして、この様な拙いブログを素敵な画像で色を挿して頂いたAli様には言葉では表しきれない感謝の気持ちで一杯です(´•̥̥̥ω•̥̥̥`)♡
最後に、このお話に賛同の拍手、そして愛のある温かいコメントを寄せて頂き、読者様にはただひたすら感謝の一言で御座います・゚・(。>Д<。)・゚・
さて…明日はいよいよ、ですね。
実はこの企画のテーマに沿って、リアルホミン設定のお話も作ったんです。
なので、そのお話を明日の0時に更新予定でおります。
時期としましては分裂期前、ユノが入隊前、そして兵役中のユノが休暇でソウルに居て、チャンミンがLAに飛ぶ辺りも含みます。
もし、宜しければ明日も覗いて頂けたら幸いです♡

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