breath -前編-

「った…いっててて…………」
ツイてないってこうゆう事か…
アラームの設定を間違えて朝から講義に遅刻。
狙ってた学食の人気メニューが一歩手前で売り切れ。
鞄に入れたと思っていた今日付けの提出レポートが見当たらず、教授から脅され。
挙げ句の果て…寮の階段から激しく落っこちた。
「あのぉ・・大丈夫ですか?」
「ったた、あぁ…大丈夫…って、え?誰?」
「え・・えぇーっ!?」
「わっ!何だよいきなり、、、大っきい声出して‼︎」
「え、だって!僕が見えるんですよね!?」
「はぁ??見えるからこうやって会話してんだろ!?」
「あ、そうですよねぇ・・・わぁ~凄い!」
「………」
変な奴。
顔だって初めて見たし、そもそも大学生にしちゃちょっと若過ぎる。
怪しい奴に関わるべからず。
まだ一人、歓喜に沸いているその変な奴を残して俺はさっさと自分の部屋へと戻った。
「相変わらず汚ねぇ字」
今朝、遅刻した分の講義ノートを上の階に居るドンへに借りに行った。
で、さっき足を滑らせて激しく後頭部を打ち付けたわけ。
まだちょっと痛みがあるけどそんな大した事は無さそう。
頭を摩りながらノート片手に部屋の中を歩いていると。
「念の為、冷やしておいた方がいいと思いますよ?」
「………あ?」
「打ち所悪いと後々困りますからね」
「………ちょっと待て」
「はい?」
「なんで・・・お前がまたここに居るんだよ!?勝手に入ったのか!!?」
「はい!勝手に入りました♪」
「はい…ってお前ね……あ、頭いてっ、、、」
「えっ‼︎ほらやっぱり~大丈夫ですかぁ!?」
「な、、勝手に触んな‼︎」
スカッ
「・・・え?」
「あーやっぱり。それは無理でしたかぁ、残念…」
「お前………えっ、何!?えッ!何なの!?」
「それは・・・・多分・・・」
《幽霊》
奴はそう言った。
聞けば何で自分がここに居るのかも、どうして幽霊になったのかも、そして自身の名前すら知らないと言う。
それを説明する間も奴は直ぐ目の前に居て、凝視する俺の視線に耐え兼ねて恥ずかしそうに俯いていた。
んー・・・でも幽霊ってこんなんだっけ?
もっと悲壮感とか漂わせているイメージって俺だけ??
俯いてるから旋毛が丸見えで思わず撫で回したくなる。
そう、昔飼っていた愛犬もこんな感じだったなぁなんて。
よく俺に撫でて貰いたくて頭を寄せて来たもんなぁ、なんて。
「あの…怖くないんですか?」
「は?何が」
「僕が幽霊だって分かっても不快じゃないのかなって…」
「あぁ、別にそれは大丈夫。だってお前可愛いもん」
「か、///‼︎」
幽霊はそのまま固まってゆでダコになった。
だって、本当にそう思うんだ。
幽霊って言うよりも、もし後ろに羽根が生えていたら天使に間違う位の可愛いさだった。

でも…
「男に可愛いって、傷付くか。ごめんな」
「いえっ‼︎そんな、、ユノさんにそんな風に思われて、、、凄く…嬉しいんです///」
「あぁ…そう?それならいいけど。あ、俺の名前は知ってんだ?」
「はい、僕はずっとユノさんのお部屋でお世話になってますから」
「はぁ!?ずっとって、ずっと!?」
「はい!僕が幽霊になってからずっとここでユノさんと暮らして来たんです」
俺がこの寮に入ったのは大学に入学した時だから2年前…それからずっと生活をこの幽霊に見られて来たのか。
この幽霊に。
もじもじと恥ずかしそうにまた俯きやがって。
今更恥ずかしいって思うのは俺の方って突っ込みたい所だっての。
でもそんなのこいつに責めたってしょうがない。
「じゃあさ、俺の事なら何でも知ってんだ」
「そうですね、ここでのユノさんの事はある程度見てます」
「ふーん、じゃあ俺の事どう思う?」
「…………好きです」
「は?」
「えっ、いや、だから…ユノさんの事は好きだと思います///」
いや、あのね。そんな事を聞いたわけじゃ無いんだ。
変わってますとか。普通ですとか。
まぁ、変態ですねとは言われないと思っていたけれど。
まさか、それは無いよな。
"好きです"なんて。
そう言ってまたもじもじと俯いたあいつを。
俺は…男なのに、幽霊なのに。
無性に抱き締めたい程に可愛いと思った。
だから。
「俺もお前の事は嫌じゃない…けど」
そう言って、その幽霊との奇妙な生活を受け入れてしまったんだ。
----けれどその生活は思いの外、居心地が良くて。
「ユノさん近頃帰って来るのが早いですね?」
「あ、んー、観たいテレビもあるし」
「そうですね!今日はドラマが2本と~あとお笑いショーもありますね♪わぁ~楽しみです‼︎」
って、喜ぶお前の顔が見たいんだけどな。
一緒に生活をしてから分かった事だけど、こいつは喜怒哀楽がはっきりしていて見ていると本当に飽きない。
ドラマなんてケタケタ笑ったりボロボロ泣いたりと大忙し。

見た目だけで判断すれば歳は高校生くらい。
あどけなさも残しつつ時折大人びた表情を見せるからその度にドキッとさせられる。
俯いて瞼を伏せている姿なんて。
どうしたものか、…ほら今だって。
「眠いのか?」
「あ、……は…い…」
「じゃあ先に布団に入ってろよ」
「すみません…じゃあ、お先におやすみなさい…」
「うん、おやすみ」
可笑しいよな。
あいつは普通に睡魔に襲われるし、布団に入って寝たりも出来るんだ。
しかも後で俺が来るのを分かっているから端っこに寄って丸くなって寝ているから笑える。
本当、普通の人間だと勘違いしそうになる事ばかりだった。
ただ、その体に触れる事が出来ないだけ。
それが唯一あいつを幽霊だって再認識させる要素だった。
けれど…
触れられない----それが俺とあいつの壁でもあった。
課題を終わらせて、ようやくベッドに潜り込む。
勿論、隣で寝息を立てているあいつの体温が布団に伝わっている訳もなく。
ヒヤッとした感触が無性に哀しかった。
ベッドが軋む音であいつがこっちに寝返りを打つ。
起きる気配すらないけれど、音を立てずにそちらにそっと体を向けると。
直ぐ鼻先にあいつの息遣いを感じる。
触れられないのに、息が顔に掛かるなんて…
この腕に。
お前を抱き締めたいよ。
本当は、幽霊じゃないんだろ?って。
何度。この息遣いにあいつの《生》を感じた事か…
何で俺。
幽霊なんかに恋しちまったんだろう。
だって、お前って可愛いんだもん。
泣いても怒っても、勿論笑ったら最高に可愛いくて。
恋するなって方が無理だった。
俺だって…幽霊なんかに恋して、報われる訳ないのは頭では分かってんだ。
でも…それでも無理なんだ。
傍に居たら好きになってしまう。
お前が幽霊だって分かっても、俺は。
好きなんだよ。
お前が大好きなんだ。
離れたくないんだ…
「ユノさん!見てください~雪ですよーっ‼︎」
「……分かってるって、だからこんなに冷えるんだろ」
「んもー!早く布団から出て僕にもっと雪を見せて下さいよ~‼︎」
「あぁ…煩えなぁ…もう少し寝かせてくれよぉ、、昨日遅かったんだって」
「えぇーっ、、そう言ってもう何時になると思ってるんですかぁ!?全くもうっ」
変な話。
幽霊なんだから自由気儘に外にでも行ってくればいいじゃないかって、そう思うけれど。
あいつは何でなのか、この寮からは出られないんだ。
まるで結界みたいな物で封じ込められている感じで。窓の向こうへは擦り抜ける事が出来なかった。
だから今もこうして、部屋の中からふわふわと舞い降りる雪を見上げてただ眺めるしかない。
擦り抜ける事の出来ない窓に張り付いて。
はぁ…と、白い息を吐き。
曇ったガラスにつーっと、指を滑らせている。
わあっと歓喜の声が上がった。
「へぇ…お前、窓に字が書けるんだ」
「僕も初めて知りました!えーっ嬉しいです‼︎」
それは新発見だった。
水に触れても反応しなかったのに、何故だか吐息の曇りだけに字が書ける事を2人で知った。
あいつが書く字は俺の癖のある字体とは違ってとっても読みやすかった。
あいつの素直で擦れていない性格を表すように綺麗だと思えた。
《정윤호 》 -チョン・ユンホ-
「何で俺の名前ばっかり書いてんだよ」
「ふふ、だって僕は自分の名前を知らないですから…だからユノさんの名前を沢山書きたいんです」
「…そっか」
嬉しそうに言ってる割にはその横顔が泣きそうなんだ。

お前…寂しいよな。自分の名前も分かんなくて、いつまでこうして居るのかさえも分からないし。
俺が離れたくないって思ったとしても、こいつはもしかしたら呪縛霊って奴で。
離れる事が出来ないんじゃないかって…
離したくなんてないけど。
それはこいつにとって幸せじゃないんだろう?
いい加減、成仏したいよな…
でも。
俺はやっぱり。
お前を離したくない。
…ごめん。好きなんだ。
だからもう少し俺の傍に居て欲しいって思ってしまう…
幽霊でも俺は
お前が大好きなんだよ…
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