イクメンウォーズ #4

"理想の奥さんだな"
この一言がさっきから僕の頭の中でリフレインする。
小さい頃に夢中で遊んでいたおままごとが、いつの間にか料理と言う趣味に変わり。
誰かの為に作るわけでもないのにどんどん新しいレシピが記憶にインプットされていっただけ。
本当、誰かの為に作っていたわけじゃなかったのに…
でも、本当…
料理が出来て…良かったって思う///
バシャバシャと水の跳ねる音と、ミヌ君の高らかな笑い声。
これが幸せの音だなぁって。
しみじみと思いながら、脱衣所にそっと着替えを置く。
「あれ?もしかして、ママ!?」
僕の気配に気付いたミヌ君の嬉しそうな声に思わず顔が綻んで。
「うん、ここに着替え置いておくね」
浴室の曇りガラス越しに声を掛けたんだ。
「ママっ!ママっ‼︎見て、凄いんだよっっ‼︎」
その曇った向こうから僕を引き止めるミヌ君。
だから、そーっと開けたドアの隙間から顔を覗かせたら。
「パオ~ンッ‼︎」
それは・・・・、ハッ‼︎
園長のっっっ///‼︎
ガタッ、、ガターンッ!!!!
「わぁー‼︎ママっ~~!?」
お風呂場で倒れた僕をその後どうやって園長がリビングまで運んでくれたのかは、想像したくもなかった。
目を覚ました僕の視界には心配そうに覗き込んでいるミヌ君と……オールバックを解いた園長が居た。
サラサラの髪がお風呂上がりのラフな格好に良く似合っていて。
陰でヤクザと呼ばれていた人と同一人物だとは到底思えなかった。
一言で言うならば。
・・・かっこいい
ヤクザな風貌だって僕にとってはどストレートだったのに…
こんなの見ちゃったら、、、
もうこの恋から抜け出せる気がしないっ////‼︎
「・・ママ、また伸びてる…」
しまった!2人に顔を覗き込まれていたんだった‼︎
「ママもびっくりしたんだよね?パパの象さん凄かったもんね♪♪」
/////…無垢って、罪かも、、、
当の本人はまた肩を揺らして笑いを堪えてるし。
こんな時の正解ってなんだろう!?
「・・・本物の象さんより立派だったね///」
かな?
園長は僕のその答えに、盛大に吹き出してお腹を抱えてそこら辺を転げ回った。
「あ~~~~ほんっとお前っておもしれぇ~~、、、、」
誰の所為でこうなったと思ってるんだよっっっ///!!
「もうっ、、知りませんよっ‼︎」
情けないのと恥ずかしいので、頭の中がごちゃごちゃで。
付けていたエプロンを勢いよくその場に叩きつけると。
それをどういう風に勘違いしたのか。
「ママ…怒っちゃった…うっ、、ふっ、、ひくっ……」
って。
ミヌ君が泣き出してしまったんだ。
僕がその様子に慌てたように、園長も同じように笑う事を止めてミヌ君の傍に駆け寄り。
大きな大人が2人。
幼い子供の涙に翻弄されるんだ。
どうしたら誤解が解けるのか?
どうしたら泣き止んでくれるのか?
保育園とは勝手が違う、家庭の些細な出来事にも僕等2人は大慌てした。
僕が口頭で一生懸命説明をしている横で、園長はしきりに変顔を作ってミヌ君の笑いを誘う。
そんなのを横目に話していたもんだから次第に僕まで可笑しくなって。
遂に吹き出しちゃって。
そしたらいつの間にかミヌ君の涙が止んで、その顔には笑顔が戻っていた。
僕が笑って、園長も笑っていて。
その間に挟まれているミヌ君も笑っていた。
即席なのに、まるでそれは。
本物の家族みたいに思えたんだ。
「いーち、にぃーい、さーん、しぃーい・・・」
30を数える前に隠れなきゃ。
喧嘩なんてしていなかったけど、何故だか仲直りの印にって。
隠れんぼをしようよって言い出したミヌ君。
多分、この割と広めのお家を探検したかったんだと思う。
けれど、ジャンケンしたら鬼に当たっちゃって凄く悔しがっていたっけ。
それを代わってあげない僕等も本当、大人気ないなって思うけどね。
ミヌ君が数を数え始めて直ぐに園長はそのリビングを出て行ってしまった。
残された僕も早く何処かへ隠れなきゃいけないんだけど、、、
取り敢えず部屋を出て、幾つかあるドアを通り過ぎ。一番奥の部屋へ逃げ込んだ。
そこは園長の寝室だった。
今朝、起きて抜け出した形跡がそのまま残されていて。
それが園長らしくて笑い出しそうになったら、遠くからミヌ君の声が聞こえて来ちゃって慌てて近くにあったクローゼットに潜り込んだんだ。
その中は真っ暗なのに…何だかちょっぴり男臭い匂いが漂って。
あぁ、これが園長の匂いなんだぁ…って、思いっきり鼻から息を吸おうとしたその時。
「チッ…せめぇのに何でわざわざ同じとこに隠れんだよ」
背後から聞き覚えのあるドスの効いた声、そして首筋に掛かる息に。
僕の心臓は急停止した。

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