だから、敢えて住まいもスマホも。
彼に何も相談せずに決めたんだ。

見えぬ恋人に嫉妬ばかりして、彼の気持ちを考えない自分にも。
心底、嫌気がさしていた。

チャンミン自身が俺と恋人のどちらを選ぶのか。
その答えをただ待てる男に…

なりたいと思い始めていたんだ。



◆＊◆＊◆



朝から少し、熱ぽっさを感じて。
体温を計ると37.8℃、微熱か…

けれど、今日はどうしても外せないスケジュールがあるからと。
食欲の出ない体に栄養ドリンクを流し込んで家を出る。

なのに。
やはり彼には隠せないという事なのか。

「…ちゃんと食べれてるの…？」

心配そうに揺れる瞳に。
無意識に俺の頬に伸ばされた手に。

やはり。

心の奥から湧き上がる想いが胸を締め付ける。

ツキン、と。
込み上げる淡い恋心。

チャンミンが愛おしい…

それを隠すように。
その指を咄嗟に口に含んだ。

食事もそうだが。

「ちゃんとは食べてないかもな…」

そう…近頃は。
まともにチャンミンをベッドで抱いていない。

だから咥えている指から蜜が滲み出るかのように。
愛おしく。
彼の末端を舐め取った。

この愛撫だけでも幸せだと思えるように。

それ程、本当は彼を求めて止まないのに…



「ヒョン！」

その声に驚いて身を離したのはチャンミンだった。

そして彼の口からは。

「…………スホ…」

と。



◆＊◆＊◆



今日は、午後から社長の息子の子守りを任されていた。

その息子は、実力なのかコネなのか。
海外留学を終えて、唯一海外支社のニューヨークに在職中だと聞いていたのに。

その息子が。
何故…チャンミンと知り合いなのか？
疑問が浮かぶ。

けれど直ぐにその答えはスホの口から切り出される。

ゆっくりと一歩、俺達に近付き。

「…ヒョンが近頃、チャンミニヒョンと連絡が取れないって言ってましたけど…こんな所で浮気ですか…？」

その嫌味のない爽やかな笑顔は…俺に真っ直ぐ向けられ。

困惑して青ざめてゆくチャンミンと爽やか過ぎる笑顔のスホを交互に見比べるしかできなく。

何も言い返せずにその場で立ち尽くす俺に。

「明後日まで宜しくお願いしますね、チョン室長」

と、またにっこりと気味が悪い程の笑顔が降り注がれるだけだった。







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