2015_03
31
(Tue)00:00

陽だまりの中 episode 1






冷たい雨の中、マンションの玄関の垣根に震えながらうずくまる傷付いた一匹の猫を見つけた。

その猫はボロボロに傷付き、目の下と喉に大きな怪我を負っていて、その怪我の深さが尋常では無い事。
それと雨の中で体温を奪われ体が冷え切って動けなくなっていた事を確認すると、直ぐに手当が必要だと思った。

だから俺はその猫を放っておけず、治療を受けさせる事を選んだ。

相当な傷にも関わらず何とかその猫は一命を取り留める事が出来た。
安堵に胸を撫で下ろしていたのも束の間、医師から告げられた一言に衝撃を受ける。

それは"声を失っている"という事。

それが外傷の所為なのか心因性によるものなのかははっきりと分からないと言われたが、その時、この猫には俺が必要なんだと思わせた。

だから退院の時を待ち、自宅にそのままその猫を引き取る事にした。
けれど部屋に上がる事に酷く怯え、初めのうちは用意した食事にも手を付けず俺とも距離を取ろうとしていた。

一日の大半をソファの片隅で丸くなる様に寝て過ごし見る見るうち痩せこけていくその姿を胸が締め付けれる思いで見守った。

しかし、ある日。

牛乳に砂糖をひと匙加えてホットミルクを作っていると鼻をひくひくさせてその匂いに釣られた猫が俺の視線と合わさる。

それが初めてのアイコンタクトだった。

俺を見つめるその瞳はつぶらながら漆黒に輝きを放ち。

まるで

"飲みたい"

そう訴えかけているように思えた。
そっと距離を取りながらテーブルの上にカップを置いてキッチンに戻ると、猫はおずおずと手を伸ばしてミルクに口を付ける。
やはりお腹が空いていたのか冷まさずに一度に飲もうとして

"ひゃっ!!"

と言う顔と共に赤くなった舌を出してふー、ふー、と唸っていた。
その姿が余りにも滑稽と言うか愛おしいと思えて思わず、ぷっと吹き出してしまった。

その声に反応してソファからガバッと顔をこちらに上げた猫はくりくりとした目をキョトンとさせて

"どうしたの?"

と首を傾げて見せた。
その時、猫の中で俺への警戒心が薄れた事を感じ、ゆっくりと歩み寄ってソファへ腰を下ろすとその手からカップを取り上げ

「猫舌なんだな?もう少し冷ましてから飲もう、な」

と怯えない様にめい一杯優しく語り掛け、ふぅふぅとミルクに息を吹き掛けた。
その様子を嬉しそうに目を細めて眺めている猫を見て愛おしさの余り、つい手が伸びて柔らかな黒髪に触れてしまった。

一瞬、ビクッとなる体に怖がらせてしまったと焦りを感じたが、直ぐにその手に擦り寄る猫の仕草にホッと胸を撫で下ろした。

そして同時に何とも言えぬ感情が込み上げた。
それはその猫に対する恋とも愛情とも取れるそんな想いだった。

愛おしいから触れたい、触れたいけれど壊れそうでそれ以上は踏み込めない。

まるで壊れ物を扱う様な想い。



その日から猫との生活が一変した。

俺の作った物は全て残さず美味しそうに平らげ、風呂上りにはドライヤーを片手に待つ俺の胸へと飛び込んで来る。
髪を乾かす間もうっとりとした顔で心地良さそうに腕の中で丸まる。

殆ど警戒心ゼロに近くなっていた。

日中は相変わらずソファの一角で丸まって日向ぼっこをしながらうたた寝を繰り返し、時折、仕事をしている俺の様子を盗み見していた。

こんな時、自宅で出来る仕事をしていて良かったと心の底から思った。
一日中、そんな猫の様子を見ていられるし、何より俺の心が癒された。

盗み見を俺に気付かれていないと思っている猫はソファ越しにうっとりとこちらに視線を送って来る。
だからわざと考え事をする振りして顔を動かすと慌ててバッと視界から消えるように丸くなる姿が可愛くて仕方がなかった。

内心、あの猫が自分の事をどんな風に思っているのか考えるだけで心が温かかった。

そして、夜になるとソファから腰を上げ

"そろそろ寝る?"

とパソコンと向き合ってる俺の顔を覗き込んで来る。

「もうそんな時間か」

その頭をくしゃくしゃと撫で回し、寝室まで手を引いて連れて行く。
あれだけ日中、ソファでゴロゴロしていても夜はちゃんと寝室で寝たがる。

「おいで」

と自分の横をポンポンと叩いて呼ぶと嬉しそうに布団に入り込む。
その体に腕を回してやると胸に擦り寄るようにしてすっぽりと納まろうとする。

それがまた愛おしい。

丸くなった背中を優しく撫で下ろしているうちにスーッ、スーッと規則正しい寝息が聞こえて来る。
その寝息を聞いて俺も眠りへと入る。

これが俺と猫との生活だった。

そしてその猫にはちゃんと名前があった。


"僕はユノ"


そう、パソコンに文字を打つその姿は猫では無く、人間の男性。

俺の中では傷付いた猫を拾った感覚、けれど実際は人命救助だった。




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C.O.M.M.E.N.T

No title

中毒性のかなり強いお話かと。
エンドレスで読み続けていられる。
いまあわててポチした。笑
何度読んでも、何回めでも、
「ネコだから猫舌だよ」
と突っ込んで楽しんでる。
ヤバいね。

2015/03/31 (Tue) 08:16 | 723621mam #- | URL | 編集 | 返信

Re: No title

723621mam様

おはようございます(*^^*)早速、コメント有難う御座います♡
どうですか?興味持って頂けました?

やはーり、勘が鋭いですね(^◇^;)
そうです。かなり中毒性ありますよ。
でも今日のは序章、明日から本編ですよ。
本編はもっと毒性強し。

今日のは。
サーっと読んで、途中からあれ?猫なのに変な表現?ってなって。最後にあれっユノ!?
で、また最初から読み直すとにまにま♡

ポチ忘れる程なら嬉しいですよ(笑)そしてポチ有難う御座います♡

やっぱりそこ、突っ込みますか(笑)

風邪引きました〜

2015/03/31 (Tue) 08:48 | shin #- | URL | 編集 | 返信

No title

いつも読み逃げしてました。このお話好き!読み返しにきたのでコメント残そうと思いまして・・

2016/02/11 (Thu) 10:22 | バビ0507 #xEbBP1EA | URL | 編集 | 返信

バビ0507様

バビ0507さんこんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

そして初めまして!いらっしゃいませ〜♪♪
全然読み逃げ大歓迎ですよ(*´罒`*)ニヒヒ♡
でも読み返して貰えてたなんて、それを知って凄く感動しました(´•̥̥̥ω•̥̥̥`)♡

このお話を好きだよー!って言って下さる方が結構いらっしゃるんですよね💓
ミンホだとなかなか読んで貰えなかったりするんですけど、こんな風に感想を頂けるとやっぱり嬉しくて喜んじゃいます(*≧艸≦)
足跡、バッチリ残りましたよ〜〜♪

2016/02/11 (Thu) 21:51 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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2016/04/27 (Wed) 15:27 | # | | 編集 | 返信

じゅ***様

ぶは(笑)!part2!

違います(*^m^)o==3プッ

お話は被りませんよ〜人間です♡

2016/04/27 (Wed) 15:38 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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2016/04/27 (Wed) 16:18 | # | | 編集 | 返信

じゅ***様

じゅ***さんこんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

あははは(笑)!仕事して〜〜〜(੭ु ˃̶͈̀ ω ˂̶͈́)੭ु⁾⁾
ふふ、でも嬉しいです♡

2016/04/27 (Wed) 19:06 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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