Love Triangle #1

この時期、異動で来る社員なんて珍しい物でも無く。
いつもの様に軽い挨拶をして、後は部下達に任せるつもりでいた。
けれど。
「今日付けでこちらの部署に配属されましたシム・チャンミンです」
その姿を一目見て。
こいつの面倒を見るのは自分だと思った。
何でそんな風に気持ちが動いたのかは分からなかったが。
その時、確かに心がざわついた感じがして。
気が付けば。
「当分の間、シムと俺がパートナーを組む事になった」
そう、部下の前で話す俺が居た。
◆*◆*◆
「室長、シムさんの歓迎会どうします?この時期だと何処も予約がいっぱいですね」
そう言って歓迎会の幹事を取り仕切るのはうちのグループの一番のしっかり者。
リョウク。
俺の至らない点を上手くサポートして、グループの潤滑油的存在だ。
「あぁ、そうだな。じゃあうちでも来るか?」
その言葉に待ってましたとばかりに。
「そうしましょう!久々に奥さんの手料理が食べたかったんです!!」
ほらな即答だ。
どうせ、鼻からそのつもりで店なんて探して無かったんだろう。
ったく、しっかりしてるんだか…ちゃっかりしてるんだか。
それでもまぁ、部下が自分の家に来たいと思ってくれるのは上司としては素直に嬉しい。
「シムさん、食べる事が大好きらしいんで。奥さんの手料理なら納得ですよ!」
自分が太鼓判を押すとばかりにニコニコと笑う顔がまた憎めない。
「だといいな」
リョウクの頭をくしゃくしゃにして。
ふと、俺は別の事を考えていた。
アイツの口に合うかなんて気にも留めなかったが。
自分のプライベートに踏み込まれると思うだけで少し心が浮ついた。
◆*◆*◆
「乾杯!」
アイツの短い挨拶を終え。
俺の発声の元、歓迎会がスタートした。
リビングのテーブルに用意された御馳走の数々は、妻の手料理だ。
妻は結婚と共に仕事を辞め、週一で料理教室に通っている。
その腕前を披露する機会に丁度良かった、そう本人も言って張り切っていた。
皆んなが羨む理想の家庭。
それを俺はアイツにも見せ付けたかったのかもしれない。
他の部下と同様に。
「いや~本当に室長が羨ましいです!!仕事も出来て、容姿も良くて、奥さんも綺麗で料理も上手で!マンションだって購入されて!これ以上の幸せなんて無いですね!!」
歳もそんなに変わらないドンへにここまで持ち上げられると流石に嫌味かと思ってしまうが。
ドンへも本音でそう思っているのを知っているから尚更悪い気がしない。
俺自身、それを隠すつもりも無かった。
「お前らも俺みたいな幸せを早く掴めよ」
それが飲みの席の俺の決まり文句だった。
その言葉に部下達は溜め息を向けるばかりで情けない話だ。
そんな中、チラッと席の中央に目を向けると。
飲み物に手を伸ばしたアイツと視線がぶつかった。
大きな瞳がギョッと一瞬開くと直ぐに顔を逸らした。
何なんだ。
目が合ったぐらいでそんな反応。
少し苛ついた。
それからアイツの様子を伺うようにしながらも周りの部下達と話を合わせ続けていた。
俺には目を逸らしておきながら他の奴らとは楽しそうに会話をしてんだな。
今度はそう思う自分に苛ついた。
その後はもうアイツの事を気にする自分が馬鹿馬鹿しくて。
背を向けるように他の奴らと盛り上がっていた。
まぁ、上司といえど飲みの席が進めば俺も普通の人だって事だ。
心だってそんなにいつも広い訳じゃないって事を言いたかった。
歓迎会もそろそろお開きの様子になり。
リョウクが皆んなの腰を上げさせる。
けれど。
「室長…すみません。シムさんが潰れてしまいました」
部屋の片隅で大きな体を丸くして寝ているアイツ。
「誰がこんなになるまで飲ませたんだよ」
低く響き渡る声に誰も目を合わせない。
まぁ、俺も気を配らなかった責任を感じるのは否めないが。
それでもこうなる前に誰か止めろよ。
「はぁ…。まぁ、分かった。こんなデカイ奴をお前らに背負わせるには荷が重いだろ。うちで休ませて後は俺が何とかする。だからもう帰れ。」
明らかにアイツと俺よりも身長が低い面々を前にして皮肉を込めて言ってやった。
まぁ、明日が休みだから何とかなるだろ。
そんな考えもあった。
最後まで謝るリョウクを追い出して。
目の前の丸っこい頭を眺めていた。
さて、どうするかな。
手を伸ばしてその頭に触れようとした瞬間。
「もう飲めません…」
寝返りを打って目を閉じたまま顔を向けたアイツが呟いた。
「安心しろ、もう飲ませねえよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてその寝言に答えてやる。
するとパチッとまたあの大きな目が開き俺を捉えた。
「あ…あの、室長…?」
ゆらゆらと瞳を潤ませてとろりとした表情。
頬は少し赤く染まっていて。口元も半開き。
その色気に一瞬、心がざわついた。
嫌な予感。
「あぁそうだ。お前ちょっと飲み過ぎたな、大丈夫か?立てるか?」
一人でなんとか体を起こそうとする肩を支えた。
それでもかなり辛そうだった。
仕方なく、半身だけ起こさせ壁に寄りかからせた。
まだ肩で息をして背中を丸めている。
その様子を横目に冷蔵庫から出したペットボトルに手を掛ける。
「ほら、水だ。口開けてみろ」
顔を上げたアイツは苦しい呼吸の中でペットボトルに口を付けた。
けれど力が入らないのかダラダラと水が口元から零れ落ちる。
「っち」
小さく舌打ちをして。
一口、水を含み。アイツの顎を掴んで。
その口に流し込んだ。
ごくっと喉を鳴らして水が注ぎ込まれる。
そして残ったのは弾力のある唇。
もう一口、水を飲ませようと唇を離した瞬間。
「ハァ…」
とアイツの口から淡い吐息が漏れ出る。
そして潤んだ瞳で
「室長…」
そんな風に呼ばれたら。
濡れて輝くその唇に噛み付いた。
2ヶ月前に書いたストックです。
まだ3話までしか書いていなかったのですが、そろそろ出してみようかなと思って投稿しました。
お昼の雰囲気に合う内容じゃないんですけど、昼ドラ感覚で読んで頂けたらって思ってます(^^;;
これは気が向いた時に更新するつもりです。
多分。
でも「毎日、読んでます」とか言われると弱いんです(;-ω-)ゞ
そっかぁ~それなら頑張るかって。
陽だまりの中が終わったら、ほっこり系を書きたいですねぇ。
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C.O.M.M.E.N.T
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は***様
こんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♪
おっ♡あの作品を好いて頂き嬉しいです♡
正直、私の思惑以上に高評価な作品だったみたいで驚いてますが(笑)
なるほどなるほど、参考になる御意見有難いです!!
私も実は辛い系は苦手なんですよ(>_<)
早くほっこり、ふわふわしたようなお話を書きたいと思って完結を急いでいます。
昼ドラ…。表現が変でしたね(笑)
タイトル通りだと三角関係になりますが…
でもドロドロはしない予定ですので最後までお付き合い下さいませ(*^_^*)
No title
そんな自らチャンミンに堕ちに行ってるようなもんじゃないの。
ねえ?
723621mam様
こんばんは( *´艸`)コメント有難う御座います♪
…ですよね(;-ω-)ゞ自爆してますよね、室長。
ざわついた、嫌な予感、その時点で留まれば良いものを。
ねぇ?