2019_07
10
(Wed)20:43

Blue Jeans #1

その日の売上目標額をクリアしていた俺は颯爽と常連客と共に夜の街へと繰り出す。枕営業をしないのが売りの俺のスタイル通りにカラオケでひとしきり騒げば、それでアフターは終了。割と早い時間に開放されたその足で今度は馴染みの店へと向かう。そこのマスターから仕事中に入っていた連絡がずっと気掛かりだった。
「どれ?迷える子羊ちゃんは」
小声でマスターに聞けば目線だけでその存在を伝えられる。振り向けばすぐにそれと分かった。確かに今もこうして涎を垂らして機会を狙う狼の群れの中でも、その子羊は呑気にビールなんかを煽っている。初めて見る顔だし、マスターから俺に連絡が来るという事はここがどんな店なのかも知らないのだろう。
「なぁ、隣りいいか?」
どこかぼんやりとしていた筈の男の瞳の焦点が、俺をみとめた途端に目の奥に光が見えた。それだけこの男の目に強く惹き付られる何かがあった。その目力の強さに一瞬怯んだものの、男は以外にもあっさりと隣りを許した。暫く一緒に飲んで、二軒目に誘うと素直にそれにも応じた。周りの狼達はそんな俺達を遠巻きに眺めているだけで、マスターは厄介事にならずにホッとしたに違いない。
二軒目に行くと見せ掛けて狭い路地で強引にキスを仕掛けた。同性は許容範囲内じゃないとなればここで一発食らって当然のところを、その男は僅かな抵抗を見せただけで舌を割り入らせても最後まで手は出てこなかった。
「…逃がしてやろうと思ったんだけどなぁ」
マスターの厄介事を処理してやった御礼に味見程度のキスぐらいはと思っていたが、目の前の何にも動じない男に俄然興味が沸く。
「あそこがどんな店なのか、本当は知ってたとか?」
あの店で見るのは初めてなだけで、他で結構漁ってるのかもしれない。だが、男は予想に反して首を横に振る。
「そう…じゃあ俺と先へ進んでみる気があるならこのまま着いて来いよ。その代わりもう来た道には戻れない、どうする」
決して無理強いはしない、男であろうが女であろうが選択肢は必ず与えて自分で決断をさせる。自信過剰かもしれないが、俺に嵌ったら後戻りは不可能だ。
考える時間を充分に与えてから先にゆっくりと歩き出す。遅れて男の足音が追ってくる気配に、この賭けは成功したと思った。
そして案の定、男は見事な程に俺に嵌っていった。
2019_07
10
(Wed)20:44

Blue Jeans #2

じわりと汗が額に滲む。
受け入れるべきじゃない事は重々分かっているのに、分かっていながら毎回そこを許す度に自分はこの背後の男のテクニックに溺れてるんだと。男としての矜持をあっさりと崩させた奴の硬くなったものを押し付けられて、僕は息を詰めながら自覚した。
「…欲しいんだろ?」
やめて欲しい、こんな時にそんな掠れた甘い声で囁くのは。それでなくてもずっと恥ずかしい思いを堪えて尻を突き出してるってのに、これ以上言葉で欲したら僕のプライドは無いにも等しい。
「どっちの口もお堅いか、まっ別にいいけど…」
するりと背後を覆われて自分と同じくらいの体の圧を受けながら、ピタリと吸い付くような肌の質感にぶわりと総毛立つ。でもだからってそれが嫌だと思わない自分に嫌になる。ふっくらとした乳房が背中に張り付いてるわけでもないのに、どくどくと心臓が跳ねる事自体おかしい筈なのに。
「痛くないのはもう分かってるのにな、いつまで経っても慣れないか…」
くすりと背後の影に笑われても、それにも僕は答えられない。ハイ、ソウデスなんて口が裂けても言いたくはないから。痛くされた事は確かに無いけれど、何回されても慣れたいなんて思っていないのだ。
「いいさ、そのままで。慣れてない割に俺のだけは…」
中途半端な所で強引に首を捻られて唇を塞がれる。その続きを、と一瞬よぎったけど聞かない方が身のためだと悟る。
既に突っ張る腕は二人分の体重に悲鳴を上げそうに筋張り、ねっとりと絡み付いて喉奥まで差し込まれた舌に呼吸は苦しいのに。それでもやめて欲しいと思っていない自分がいる。
「ん、」
最後に舌をねぶって離れていく赤いその唇が名残惜しいだなんて。もっとキスしていたかったなんて悔しいから言わないけど、この男のキスは常に極上だった。
その間にも太腿から撫で上げられた手の動きにぞわりと震えが止まらなくて、そろそろ観念するべきだと覚悟を決める。
「ゆっくりと息、…吐いて」
ゴムの膜が薄い皮膚を少しだけ押し開く。怖い、と言う想いが先に来て、固まると必ず髪の毛に柔らかな感触が与えられる。
「大丈夫。ゆっくりやる」
その言葉に安心して泣けそうになるから腹が立つのに、何でこんな事をと。子供でもないのに頭や体を大人しく撫でられた上に、あられもない格好まで、なんで自分がこんな。
「く…っ、」
不意に耳の後ろで吐き出された男の息に震える。僕のこんな狭くて硬い場所をどうしてそんなに切羽詰まってまで入ろうとするのだろうと。
「一気にいかないから、大丈夫…」
気付けば白くなった指先に男の手が触れる。シーツを強く握り締め過ぎて血がそこまで届かなかったのだろう。なのに男の手がその指に絡んだ途端に血が通い出すのが不思議だった。どくどくと熱くて、今の今まで白かったのが嘘のようで。
「痛くないようにゆっくりな」
まるでこれは呪文だ、同じ言葉の繰り返し。それでも不思議と心と体は繋がっていて、気持ちが落ち着けば強ばっていた体も勝手に緩み出すのだ。
「ん、中は柔らかい…」
わざわざ口に出す必要は無いのにと思う。そんなのを受け取ってしまえばただ耳は熱くなるだけだ。だけど体の中の男のものも、負けないぐらい熱いから困る。僕の何がそんな事にさせるのかと。
「はぁ、悪い。俺だけ気持ち良くなって」
一瞬、体に走った電気の正体は男の手の動きだった。まだ全部入っていないのに、僕の体を弄り出すなんて余裕綽々と言いたいけど。でも正直、直接の刺激は有難い。
普段もその男の指はしなやかな動きが美しくつい目で追ってしまう程で、今だって思わず追いそうになり、指の先で目にしたものに慌てて逸らす。
「自分の見て興奮してたのか?」
分かっている事をいちいち聞いてくるのが男の悪い癖だった。でもそれさえも嫌じゃないから咎めないけど。
ゆっくりと全体のフォルムを包み込むように指先で柔らかく握られると僕のは顕著に質量を増して。背後の男が嬉しそうに手を筒状にしてその質量を更に育て出す。
「ここ擦られるの好きだよなぁ」
キスも上手いけどピンポイントで性感帯を見つけるのも上手いから、簡単に僕のものは男の手の内で転がされて大きくなる。
「このまま出したい?」
かぷりと甘噛みされた耳の縁にまた唇の熱が押し付けられて、首筋から這い上がって来る鳥肌を払うように僕はかぶりを振った。
「…分かった」
男はそう短く答えると添えた手はそのままに、僕の体の中に留めていたものをゆっくりと動かした。出る事はあっても入れられる事など有り得ない器官を男のものが抜き差しされる。痛みは無くても違和感で埋め尽くされた腸内、自然とまた力強くシーツを握ったタイミングで男は手の内のものをゆるりと扱き出す。
「痛いか…?」
ゆったりとした腰の動きに合わせて僕のものも緩々と擦られる。違和感はまだあるが、痛みは無いので小振りに頭を振った。
「でも凄い汗だな」
背を這う舌の生温さにまた鳥肌が立った。何がいいのか分からないが、男は僕の体から噴き出した汗をぺろぺろと舐めとっていく。擽ったさはあるものの嫌悪感は無く、時折強く吸われるたびに顔を上げた。何故か背中にだけ痕を残す男の行為が不思議で、けれども一度もその理由は尋ねられていない。幾つか痕を付けて満足をしたのか、男の両手が僕の腰に回され、緩慢な動きから本格的な腰振りへと変わる。傷付けないように壊さないようにと、男の労るような腰使いも悪くないけれど、奥へ奥へと強く穿たれる例え難い刺激に痺れた。
「声、我慢すんなって…っ、」
腰を一層強く掴まれ揺さぶられて、とっくに抑えていた声なんて漏れ出て止まりやしないのに。これ以上の喘ぎを求めて気持ち悪くはないのだろうかと不思議に思う。
けれども僕はそんな男の心理よりも刺激される中の具合に没頭していたかった。中でイク事を覚えてしまった体はもう手だけでは満足がいかなくて、そんな体にした男の腰使いに酔いしれる事だけに夢中だった。まるで獣の交尾のように快楽だけを追い求めて体を開き、その対価として期待以上のものをこの男は僕に与えてくれる。
汗で滑る腰を抱え直され、より一層強く掴まれた指先が僕の皮膚にめり込んで、ぶつかる肌と肌の音が激しさを増す。目に見える物はぼやけ、犬みたいな呼吸が続く。男は僕が言わなくても無言で快感を送り込むように無我夢中で動いていた。
けれどある瞬間を迎えると腸が戦慄くと言うのか、とにかく物凄い衝撃に体が襲われる。堪えきれずに膝から崩れると、視界に無数の星が飛び散った。ガタガタと止まらない震えをやり過ごしながら、こんな快楽をまた楽しめたと喜びに浸る。
「ふぅ、…」
溜め息と共に繋がりを解かれ、喪失感を覚える間もなく体を返されるとようやく男の表情が見えた。やり切ったような達成感を滲ませつつもまだその顔には余裕が窺える。
「まだ…出来るよなぁ」
汗で濡れた僕の下の毛を指の腹で撫で上げながら男は口の端だけを上げて笑う。そんな行為ですら敏感な今の体には堪らないのに、毛の中をうねりながら進む指にぞくぞくと鳥肌が止まらない。
「ここに欲しいのは何だ?」
指が辿り着いた先をくちくちと弄り、男は薄く笑って僕を見下ろす。充血して過敏になっているその場所は指だけでもかなりひくついていた。でも僕が欲しいのはそんなのじゃなくて、いまだに萎えずに薄い膜に包まれたそれに手を伸ばす。すると男は正解とばかりに唇を重ねる。舌をいいようにねぶられながら触れた男のものを握ると、膜を隔ててもその熱さは僕の手を溶かしてしまうようで。堪らずに自ら受け入れる場所へとそれを導いていた。
「やっと素直になったな」
笑う男の言う通りに、僕の体は浅ましく今か今かと口を大きく開けてそれを飲み込む。元々は女としか経験の無いこの体を、ここまで作り替えた男のそれはそうそう簡単に僕の中で弾けない。あと何度このまま揺さぶられてイカされるのだろうと再び熱に浮かされ始めた頭でぼんやりと思った。
霞む視界の中でも男の唇の黒子は妖しく輝いていた。
2019_07
10
(Wed)20:45

Blue Jeans #3

何度か体位を変える間に俺の下で男は数回達して自分自身が何を口走っているのかも分かっていないような状態に陥っていた。俺と言えば男がどんな仕事をしているのかも知らされていないので遠慮なく男の中を掻き回しまくった。けれど一度も男からは足が立たなくて辛かった、などの苦情は無い。だから俺の一回が終わる頃になると男は軽く意識を飛ばし、うわ言のように俺の下の名前を呼び続けた。だが本名はいまだに明かさずに俺達の体の関係は成り立っている。明かす事のリスクと、その代償を天秤にかければ自ずとその選択肢は消える。
意識を完全に持って行かれた男から、芯を失ったものを引き抜くと一回分にして結構な量の体液が薄い膜の中に吐き出されていた。そう言えば近頃はこの男としかしていないのかと、至福の紫煙を燻らせながら無防備なその寝顔を眺めて思った。
「子羊って言うか、子鹿だよなぁ…」
やってる最中もずっとあの印象的な瞳で俺を見つめる男は羊よりもどっちかと言うと鹿に近い。伏せられた睫毛を擽りながら、この図体からして子鹿でもないなと苦笑していると、寝ていた筈の男の瞼が動く。指先を掠めるように睫毛が押し上げられ、咄嗟に引いた手に男の指が重なる。そして絞り出すように出された声。何かを俺に言いたかったらしいが、散々喘がされた喉ではまともな声なんて出せないようではっきりとは聞き取れない。そのか細い声を拾おうと体を寄せると、微かに『煙草』と聞こえた。
「煙草?あぁ、火を気をつけろってか」
てっきり寝煙草を咎められたのかと思ったが、男はそれを否定するように首を横に振る。じゃあ何だと顔を顰める俺に対し、重たげな体を起こすと、ベッドの脇に落ちていた袋を指差す。確かそれは男がホテルに入る前から抱えていた物で、何か最中に使うのが入ってるのかと思っていたが。
「俺が開けても?」
頷くのを確認するなり持っていた煙草の火を消してその袋を覗くと、男には必要の無さそうな物が見えた。
「勝手に吸わないと思い込んでたけどな」
以前やった後に隣りで気持ち良く吸っていたら男の煙たげなその様子から喫煙家じゃないと判断したのに。袋の中の電子煙草を男に放ると、首を振って突き返される。
「吸わないのか?」
手の中の真新しいパッケージと無言で見つめる男の丸い瞳を交互に見ながら尋ねれば、人差し指だけをゆっくりと俺に向けて寄越す。という事はこれは俺への物なのか。
「そんなに煙たいのが嫌だったとはなぁ」
そこまでだったか、と思わず苦笑しながらパッケージをこじ開けようとする俺を、突然強い力が引き寄せる。そして耳元でボソリと何かが呟かれた。
『次は家で』
男はそれだけを言うなり布団にくるまって身を隠してしまう。まるでその姿は殻に閉じこもったミノムシで、男がどんな表情でその言葉を発したのかも見損ねる程に俺は呆気に取られていた。
「なぁ、…家って、おい」
丸い殻をいくら揺さぶっても男は顔を出す気配も無く、俺は俺でくつくつと込み上げた笑いが抑えきれずそのミノムシに倒れ込んで声を漏らして笑った。リスクへの代償が男の家ならば、それも悪くないと早くも思い直している自分に気付いて尚更笑えた。
「賭けに勝ったと思っていたんだけどなぁ」
どうやら俺もこの男に嵌ってしまったらしい、見事なまでに。
2019_07
10
(Wed)20:50

Blue Jeans公開について。

こんにちは( ´艸`)
先日の短編の電子書籍化のご案内に際して、ダウンロードが出来ない方もいらっしゃると7/1
に拍手コメントを頂きまして。
何度かトライして頂いたのにすみませんです(*꒦ິㅂ꒦ີ)
そのコメントの確認も遅くなって重ね重ねすみません。

急遽、ブログにも文章を貼らせて頂きました。
縦書き用に書かれているので読みにくいと思いますが、雰囲気が伝われば有難いです。

感想やコメントお待ちしてます⁽⁽ ◟(灬 ˊωˋ 灬)◞ ⁾⁾
2019_08
11
(Sun)08:19

Blue Jeansの続きを電子書籍でアップします。

こんにちは( ´艸`)
大変ご無沙汰しております。暑い日が続いてますが体調を崩したりしていませんか?

実はBlue Jeansの続きを書いてまして、途中までですが電子書籍化したものをこちらにアップします。

前回の電子書籍をダウンロード出来なかったとのコメントを頂いたC***さん、ザ***さん。
遅くなりましたがどうぞ今回のダウンロードが完了しますように( ´͈ ॢꇴ `͈ॢ)・*♡
もしダウンロード期間が過ぎてからこの記事を見られたら遠慮なくまた依頼下さい☆

電子書籍をダウンロード出来ないra***さん、今月中に通常の記事としてお話を貼り付けますのでそれをお待ち下さいませ。

では、皆様。暑さに負けずトン活に励みましょう❤



クリックするとダウンロード出来ます。
↓↓↓

http://ebook.blog.fc2.com/4434e3ee-47ee-457c-9f2c-53b961c90ff6/ayuayu914_20190811080904.epub
2019_08
24
(Sat)22:39

Blue Jeansの最新話を含んだ電子書籍をアップします。

こんにちは( ´艸`)
チャ✱✱✱様、コメント有難う御座います。ご要望頂いた電子書籍の再アップに伴い、最新話を追加したバージョンを貼り付けます。
↓↓↓
http://ebook.blog.fc2.com/8922de66-83f1-418c-b1c6-bae515018e41/ayuayu914_20190824223510.epub

もしまたダウンロード期間が終わってしまった物がありましたら随時コメントを頂ければ対応致します。
当ブログにご来訪有難うございます。
休載中のお話もぼちぼち書いていく所存です。

ra✱✱✱様お待たせしました。通常記事にてお話をアップしますね。
何故にダウンロード出来ないのでしょうね(*꒦ິㅂ꒦ີ)
2019_08
24
(Sat)22:58

Blue Jeans #4

靴に片足を突っ込んだ際に視界に必ず入り込む電子煙草はいまだに開けられた形跡が無い。このまま開けられないのなら人にやるかまたゴミ箱行きだなと思いながらもその場所から他へ移す気すら起こらない。
これを俺に寄越した男とはかれこれ一ヵ月近く会っていないのだから、これも同じ月日をこの玄関で使われもせずに置かれているわけで、それを憐れだなと思った。そしてすぐに何が、とも。使う機会を与えられないこの電子煙草なのか、それともその機会を待つ自分をか。
その馬鹿な考えを振り払うようにマンションのエントランスを出てすぐさま胸ポケットの煙草を取り出して火をつける。唇に挟んだ紙の感触、それとこの吸い込んだ時の何とも言えない香りが至福だと感じる。出始めの頃に俺も一度は電子煙草を試した事はあったが、あれにはこの感動が薄かったように思えて常には持ち歩かなくなり再び紙巻き煙草に戻っていった。あの時は勢いで開けて使おうかとも思ったけれど、男の放った言葉の衝撃ですっかりとその機会を失って今に至る。
「いまいち、スッキリしないな」
一本吸い終える間にも頭の中はあの男の事ばかり考えている自分にほとほと嫌気が差してそう呟いた。次は家で、と言われたその言葉の意味を俺は男の家に招かれると捉えたわけだが、待てど暮らせどあれ以来音沙汰が無いのがおかしい。かと言って俺から連絡を取って家に上げろと催促するのも癪な気がして放置した結果がこれだ。
遊び相手に不自由はないので、男からの連絡が来ないとなれば数人から受けていたお誘いの中でもめぼしいのと会ってやってみたが、何だか物足りなさだけが増幅してあとは全て断った。結局のところ、俺は男からの連絡をこうして待ちわびているわけだ。
「もう少し待ってみるか」
人からの連絡を待つ行為が新鮮だと思えるうちはまだ待てると、ふかした煙を夜の街に広げた。
2019_08
24
(Sat)22:59

Blue Jeans #5

必要に迫られない限り家から出たいとは思わない。人との関わりも太陽の日差しも、出来る事なら全てシャットアウトして過ごせたならどれだけ楽だろうと真剣に考えた事が何度もある程、家に籠るのが苦じゃなかった。けれど流石に一ヵ月近くも誰ともやっていないのは体に悪い気がして、仕事が丁度山場を越えた辺りで少しなら時間が取れるだろうかとあの男の顔を思い浮かべる。当初はこんなに掛かるなんて予想もしなかったのに、思わぬシステムトラブルに見舞われて結局こんなに時間を費やしてしまったのだ。好きで始めた仕事だからこれも苦じゃない作業ではあるとは言え、男は僕からの連絡が無ければ会う気が無いのだろうかと不思議だった。僕なんて外に出れない体を何とか手で鎮めるたびに男の顔がチラついて別の器官が疼いて仕方がなかったというのに。という事は所詮、男にとって僕は数多あるおもちゃの中の一つのなのか。
「…面倒臭い」
他人は極力家に上げたくない為に溜まった物が自分の手で処理し切れない限度まで来てからやっと外に出る機会を設けていたのに。あの男なら家に呼んでもいいかもと唯一思えたから敢えて意味深に誘っておいた筈で、性欲処理まで自宅で済ませられたらこの上ない快適さだと。僕の中で出した本気の結論だった。
「はぁ」
仕事に没頭していた間には片隅に追いやっていた男の存在が今、こうして思考を埋め尽くしている現状に溜め息が出る。男に連絡を取ろうかと考え始めてからもう体がずっと疼いてどうしようもない。ほんの数ヶ月前に女を買っていた頃はこんなでも無かったと、熱く火照る体に参ってくる。
「って、考えてもどうしようもないけど…」
あの日、どうしても溜まったものを吐き出したくて外へ出たもののこれといった収穫も得られずにすっかりと気がそがれ、たまたま入った店であの男に出会った。よく動く唇の上の黒子と、それと同じように目の前で行き交う指の付け根の黒子にわけもなくただ惹かれ。苦手な筈の他人との関わりに億劫だと感じる暇もなく気付けば唇を奪われていた。あの時点で男の誘いに乗らずこの家に引き返せていたら今のこの体の奥から湧き上がる疼きを知らぬままだったのに。
「…なんでこの僕が」
てっきりやらせてくれるんだと期待したホテルで僕が襲われた。抵抗はしたようなしていないような、そこが曖昧なのは男のそれに至るまでの手管が恐ろしく上手かったわけで。流された自覚はあるものの、流されなければあの男に犯される経験は得られていない。
ぐちゃぐちゃと考えた末にようやく男の番号を探す。出なければ諦めるつもりでコール音に耳を傾けていると数回の呼び出しでそれが途切れた。代わりに耳の中に男の独特な声色が浸る。そう言えばこんな声だったと、懐かしさが湧くと同時に、ベッドの中ではもっと甘い響きだった事まで僕の記憶は引き出していた。
2019_08
24
(Sat)23:00

Blue Jeans #6

相変わらず非常識な時間に掛けて寄越すもんだと一瞬眉を寄せたが、ここで出なければもう二度とこの画面に男の名前が表示されない気がして数回のコールで応えた。勿論そんな時間であれば俺はアフターの真っ最中であり、隣に居る常連客に断りを入れた上で賑わしい個室から煙草片手に抜け出す。器用に電話をしながら火をつけるのはもう手慣れたもので、久し振りの男の声を聞きながらゆっくりと肺を満たしていく。だが、半分も吸えていないというのに二言三言のやり取りだけで用件を告げて切ろうとする男に腹が立った。待たされた時間の割に男の態度があっさりしているように思えたのだ。だから俺はわざと今日は何時に行けるのか時間が読めないような空気を匂わせてからその通話を終わらせた。
「ちょっと子供じみてたか?」
胸がすくとまではいかないものの、まるで焦らしに焦らしで返すような幼い自分の言動につい自嘲気味な笑いが漏れ出る。そんな俺を個室で待たされていた客は不機嫌な顔で出迎えたが、平謝りしながらも意識は男がどんな顔をして俺を待つだろうとその事ばかりが占めていた。




ご丁寧な事にアフターが終わるまでに男はジーピーエスで自分の所在地を俺に知らせて来ていた。お陰で難なく示された住所までタクシーで乗り付けが出来、心の中で軽く舌打ちをする。一応取り付けていた約束の時間からそれ程大幅には超していないのだ。
更にタクシーを降りて男が入力したマンション名とその付近にそびえ立つ高層タワーの一致を確認するなりその高さを見上げて溜め息を吐いた。
「あいつ、いいとこの坊ちゃんだったりして」
人とのコミュニケーション能力の低さが金持ちの傲慢さから来るものなら厭味な奴だなとげんなりしたが、約束をした以上はそれを反故するのだけは俺の中で絶対に許されない行為にあたり、渋々目的を果たすべく喝を入れ直す。
男の住まいはタワーの丁度真ん中の階にあり、これ以上の階だったらどんな眺めが拝めるだろうとぼんやりと考えるうちに男の手が俺を招き入れる。お互いに違和感のある対面になるのかと思いきや、俺を家に上がらせながらも男は耳に当てたスマホの相手との会話に意識を取られているようで。適当に座ってくれと、ジェスチャーだけでやたらデカいソファに促される。
「俺帰るわ」
男にそう言い放ちすぐさま踵を返す。いくらなんだってコミュニケーション能力の低さにも程がある。俺を出張ホストかなんかだと勘違いしているなら胸糞が悪過ぎる。待たされた分だけ俺の中で期待が膨らんで、もっと良い奴なのかと勝手にそう描いていた部分もあった。結局は会えない時間が記憶を美化させていたと言うことで、けれどよくも知らない男の家なんかにのこのこと出向く自分も自分だと更に腹ただしさが募っていく。
「待って…っ」
男の声よりも早く腹に回された腕、それに引き寄せられる形で俺の意識も背後の男に向く。
「…怒らせたなら謝ります」
くぐもった熱がうなじに押し当てられ、腹を押さえていた手がその少し下をやんわりと包んだ瞬間、俺の中の何かが弾け飛んだ。
2019_08
24
(Sat)23:03

Blue Jeans #7

まさか帰るなんて思ってもみなかった。男の様子から腹を立てているのは分かったけれど、この場をどう切り抜ければいいのかそれが分からない。今まで人を引き止めるなんて経験もない僕にはその術が身に付いていない。だけど勝手に足は男の背中を追い掛ける。顔を見た瞬間から触れたくて触れたくて、手を伸ばせば捕まえられる距離に居た筈だった。それがまた遠ざかろうとするなんて、そんなの有り得ない。捕まえた瞬間、男からは相変わらず女の匂いがしたけれど、それに入り交じって人の肌の匂いも感じ取ったらもう駄目だった。喉から手が出る程、体が本能で欲する程、僕はこれが欲しい。
「っ、…」
男の膨らみを包んだ掌を掴み上げられ、反対の手からもスマホが消える。男の手がそれを奪った後にどうしたのかまでは知らない。もう電話の相手とは明日まで連絡がつかないのだろうと思ったけど、それもどうでもよくなる程に男の口付けにただ痺れた。あぁそうだこれも欲しかったんだと、柔らかい舌にくるまれながらうっとりと思考が溶け出していく。男にしては珍しく長いキスが終わってみれば、僕の頬にはあの綺麗な指の痕が付き、そして男のジャケットの背の部分には僕から握られた皺が波打っていた。互いに弾む呼吸の中で先に笑みを零したのは男の方が早く、続けて僕もゆらゆらと笑った。