オトコはツライよ #97 -Last-

「今日はユノ君の上がりって遅いの?」
「えぇ、、20時頃になるって言ってました」
「じゃあこのままうちで食べちゃって、ね?」
食卓に湯気が立ち上る鍋を中央に配置しながら、チェリンさんが僕とテヤンに夕食を共にするように勧めて来る。
「パパっ」
今泣いた烏がもう笑うか。
テヤンの好物の一つ、タットリタンの誘惑に息子の食欲は勝てそうになかった。
「じゃあ…お言葉に甘えて」
「やったっ!」
僕の言葉に被せるようにガッツポーズを決めるテヤンに、ソファで寛ぐおばちゃんの顔も綻んでいた。
目尻を下げると、チェリンさんとおばちゃんは親子だなって改めて思うけど。
ぱっと見はあまり似ていない。
だから…おばちゃんから『うちの娘と孫娘』と、チェリンさんとエナを紹介された時は思わずユノと二人して。
『あっ!あの時のーっ!!』
声を揃えてチェリンさんを指差したんだ。
その節はご馳走様でしたって朗らかに笑うチェリンさんは、例のガラポンの手助けをしてくれたお姉さんであって。
こちらこそ、なんて改まってユノと頭を下げたりして…
なんだ、皆繋がってたんじゃないか…
おばちゃんはようやくお口チャックから解放されたって喜んでいたのが印象的だった。
あれからもう7年…
夜中にテヤンが突然嘔吐した時、医者に連絡するとかそんな事も頭に浮かばず。
僕は一人でパニックなってしまって。
慌ててユノが隣の家に駆け込み、寝ていたおばちゃんに助けを求めて、テヤンの容態を診てもらった事もあった。
チェリンさんが勤務時間の短いパートに出るようになってからは、エナもテヤンと同じ保育園に通い出し。
運動会や遠足などの行事がある度に、各々で作ったお弁当箱を広げて一緒のレジャーシートで分け合ったり。
保育園の卒園式に、ユノと僕とチェリンさんとおばちゃんの四人で出席した際は。
卒園生代表として、エナとテヤンがお別れの言葉をつっかえながらも最後まで頑張って言い終えたのを、僕はユノの腕に支えられながら拭っても拭っても滲む視界を凝らして見届けた。
その後、保護者も御一緒に、って言われて。
ぞろぞろと壇上の後ろに回ったら、カメラマンの指示で立ち位置の入れ替えが何度かあって。
出来上がった写真を見たら…
おばちゃん、僕、ユノ、チェリンさん。
って言う並びになっていて、それを見てユノが大爆笑をしていたのを僕も可笑しくて笑い転げたりした。
小学校に上がってからは、友達の数が増えた分、保護者との関わりも多くなり。
常に行動を共にするチェリンさんと、僕とユノを特異な目で見る人も少なくは無かった。
だけど。
エナもテヤンもそんな環境にも拘らず、素直で心根の優しい子に育ってくれているのが唯一の救いだった。
「ん、うまっ。チャンミンの味付けとまた違うなぁ。それぞれの家庭の味ってやつか。うちのは一見辛そうに見えて後味がすっきりだもんな」
仕事を終えて帰って来たユノの顔を見てテヤンもささくれ立っていた気持ちがようやく落ち着いたらしく。
学校での出来事を一通り話した後、自ら望んで布団へと潜り込んで行った。
子供ながらにも心が疲れる事もあるし…早めに寝たい気分なんだな…
「チェリンさんの味付けが好みなら、今度聞いておきますよ」
「んーん、俺はうちのがいい。これは偶に食べるからいいの」
「…そうですか?」
「うん、そうなの」
ヤバイな…もう7年も経つってのに、ユノの口から「うちの」とか、僕の味付けの方がいいとか。
言われると顔が自然と緩んでしまう…
「はーっ、、食べたっ。ご馳走様」
明日は、この笑顔を僕の作った物で見たいってそう思う。
…いまだにユノへの好きが、僕の中では増幅中なんだ、、///
「えッ!あの傷って自分で転けた!?」
「はい、、喧嘩って言っても傷は自分で作ったみたいです。エナも見てましたから間違い無いと思います」
「…なんだ、、そうだったのか…」
口喧嘩はしたものの、相手の子がテヤンの理屈に口籠ってしまった為。
勝利を確信して颯爽と去ろうと振り返った所に丁度大きな石が落ちていたとか。
踏み出した足がその石を踏んづけて、バランスを崩して一人で転けてしまったらしい。
我が子ながら、、鈍臭い…
「でも良かった…相手の子からテヤンに傷が付けられなくて」
「…まぁ、そうですね…」
恒例の甘えタイム。
バッグハグする課長の腕から力が抜けて行く。
「ここはさ、どうしたって傷付くだろ」
トントンっと、僕の胸を指で叩く。
「俺達と居る限り、テヤンは嫌な思いを強いられるのは間違いない」
「…えぇ…」
「だけどさ、テヤンは俺にずっと傍に居て欲しいって言ってくれたんだ…パパと僕の傍に居て欲しいって」
「……っ」
「それならテヤンも傷付いても強くならなきゃいけないんだよ」
「…でも、、」
ふぅ、と。耳元で息を吐く気配がした。
「いつか、…テヤンにも大切な人が出来る。その時、今の痛みがテヤンを支えてくれるだろ?」
「…それは…僕にとってのユノみたいな…?」
力が再び籠った腕がそっと肩に回されて、身体全体がすっぽりとユノの腕の中に包まれる。
「そう。俺みたいにさ、チャンミンの色んな物を背負ってガチガチに固まった肩から荷物を下ろしてくれるような人がさ…必ず、現れるから」
「えっ、、」
…だから、いつも僕を後ろから抱き締めるんだ…
「山を乗り越えるのも、二人なら頑張れそうだと思わない?テヤンはまだ若いから、一人でまだまだいけるけど。俺にはもうチャンミンが居なきゃこの先登り切る自信なんてないな…」
この後に続く言葉を僕は知っている。
「一生、…俺の傍に居てよ」
もう何度もこうしてプロポーズを受けたって、ユノの不安は消える事は無い。
それは僕等が婚姻関係にもなれず、ましてや子を授かる事も許されない同性同士だからだ。
そんな不安、…僕だって同じ事。
だからこそ僕も。
「傍に居ますよ、だからずっとこうして僕を離さないで下さいね…」
「あぁ、、」
ユノが安心するまで、いつまでも同じ事を繰り返し言うんだ。
一生の愛を形にして捧げる事が出来ないなら。
毎日、好きを重ねていけばいい事だと思う。
いつかその積み重ねが大きな愛になり、ユノの不安を拭い去ってくれる事を願って…
でも。
この想いに終わりは見えそうにないのだから、僕の好きも、終わりは無いんだけどね…
ユノと出逢って、ユノの好意を受けて。
好きだと認識した自分を、褒めてあげなきゃな。
言葉にして、言った瞬間から…
愛が育ち始めた。
「…好きです、ユノが…大好きです、、」
この愛が、永遠に続きますように。
end
長々とお付き合い有難う御座いました。
ノンケ同士の恋、シングルファザーのチャンミン、バツイチのユノ。
色々混ぜ込んでしまったのでここまで長くなりましたが、ドラマチックな展開は無いけど緩々と進む中で、確実に育つものが描ければいいなと思ったんです。
ボーナストラックのつもりで書いた小学生になったテヤン編はチャミパパの複雑な心境とか、自然と浮かんで来ましたね(笑)
楽しかったです。
では明日から完結済みの短編をお送りします。
その間にイクメンウォーズを書き溜められたら…と思いますが(^◇^;)
またお付き合い宜しくお願い致します。

にほんブログ村
- 関連記事
-
- オトコはツライよ ~Christmasテヤン編~ (2016/12/24)
- オトコはツライよ #97 -Last- (2016/11/03)
- オトコはツライよ #96 (2016/11/02)
- オトコはツライよ #95 (2016/11/01)
- オトコはツライよ #94 (2016/10/31)